今回は、重度障がい者(障害等級表の第1級)の社員として働く上田玲奈さんに取材を試みた。小学校高学年の頃に、進行性の筋疾患である筋ジストロフィーが発覚した。現在も症状は次第に悪化しつつある。家の外はもちろん、中でも寝るとき以外は車椅子に乗る。歩くことは、ほとんどできない。着替えは1人ではできず、人の力が必要だ。両手の指をまっすぐに伸ばすことはできない。腕を上に伸ばすことも難しい。握力が弱くなり、キーボードを打つスピードは以前よりは遅くなっている。
2013年から、人材サービス業のマンパワーグループの特例子会社ジョブサポートパワー(東京都立川市)に正社員として勤務する。同社の主な業務は、グループ会社が新たに商取引をする際の与信判定業務や契約書のファイリング、発送、顧客リストの作成など。全社員159人のうち、マンパワーグループからの出向者が16人、プロパー社員は143人。うち障がい者は137人。(2020年12月1日現在)。内訳は約9割が身体、約1割が精神、知的で、半数以上が重度だ。2019年に「令和元年度 障がい者雇用エクセレントカンパニー賞(東京都知事賞)」を受賞した。
2004年から全社で在宅勤務(基本的に週5日、フルタイム)をスタートした。対象となるのは、働く意思や能力がありながらも通勤が困難な重度障がい者。対象者は、2013年に全社員の半数を超えた。20年12月1日時点では、全社員の約65%の94人になった。各自の自宅は全国各地にあるが、首都圏や関西圏が多い。業務の報告や連絡、相談は主に電話やメール、チャットツール、マイクロソフトの「Teams」を使う。就労は全員が通常週5日、1日6時間または7時間30分。基本的に残業はない。
上田さんは大阪府に在住で、在宅勤務。社長室の室長などを経て、2019年から経営戦略センター長(課長)として3人の社員をチームにまとめる。3人はいずれも重度障がい者で、在宅勤務。4人で主に会社の予算計画作成や社内外への広報業務、他社の障がい者の社員が在宅勤務をするうえでのコンサルティングに関わる。
上田さんにとって「使えない上司・使えない部下」とは…。
相手がどのように受け止めているかを確認することが重要
「使える、使えない」についてお答えするならば、前職などで聞いたことはあります。私のイメージでは、「使える」は機転が利くといったニュアンスがあると思います。例えば、上司が一言言うだけで、先の工程まで読める人です。かゆいところに手が届くタイプとも言えるのかもしれませんね。「使えない」は、上司から言われたことを完全にできない人や後先のことを考えずに仕事をしてしまう人だと思います。成長を望まない人も「使えない」のかもしれませんね。自分の保守に回ってしまうようなタイプです。
現在、4人でチームを組んで仕事をしていますが、メンバー全員が在宅勤務ですから特にコミュニケーションを大切にしているのです。チャットツールの文字だけでは、互いの考えや思いが正確になかなか伝わりません。文字のやりとりをエビデンスとして残すのは大切ですが、相手がどのように受け止めているか、どれくらい理解してくれているかを確認することこそが重要だと私は思っています。
そのためにチームで毎日、朝礼や夕礼をオンラインでします。心身の状態や仕事の現状、問題点を確認し合うためです。例えば、「今日は少し疲れていて余裕がなさそうだから、声をかけるのをやめよう」と感じ取ることができます。相手は「きちんとわかってくれているんだな」と思うかもしれません。ここから信頼関係が次第にできていくように思います。
私たちの会社では、障がい者の社員が参加するオンラインの会議やミーティングで顔を画面に映すことはほとんどしません。画面に出る場合、身支度をせざるを得ないのです。ふだん、パジャマのままの姿で仕事をする時もありますから…。特に女性は画面に映ることを嫌がる傾向があります。ハンディを持つ私たちは、人前に出る準備に時間がかかるのです。チームのメンバーの声を聞くだけでも、私なりにわかることがあります。チャットのやりとりの反応ではいつも通りだとしても、実際はそうではない場合もあるんですよ。
チャットではわからないことが、他の人を経由して例えば、「あの人、この前のことを気にしていたみたいだよ」と知らされる場合もあります。その後、私が「〇〇さんから聞いたけど、気にしていたの?」と本人に聞くと、その人は〇〇さんに不満などを漏らせなくなるかもしれません。何かを言えるルートがなくなってしまいかねませんので、どういうルートで聞いたかのかを本人に言うことはありません。何も聞いていないことを前提に話します。
全然、突拍子もないところから聞くこともあります。例えば、旬な話。仕事についてその人がちょうど今、対応しているところから、気づかれないように尋ねます。もちろん、別の話です。障がい者のメンバーをリードする私にとって、在宅勤務は心理戦ですね。画面を見ないから声だけで判断するのですが、とても難しい。