2024年12月7日(土)

使えない上司・使えない部下

2021年3月27日

 今回は、自動認識システム・サトーの社内ベンチャー元社長の渡部彩(わたなべ・あや)さんに取材を試みた。渡部さんは現在、同社のグローバル営業本部デザインプロモーション推進部部長を務める。

 2003年に広島大学教育学部を卒業後、サトーホールディングスに入社。営業部や事業企画本部を経て、2013年に社内ベンチャーを立ち上げる。2015年に早稲田大学にて経営学修士(MBA)を取得。同時期に社内ベンチャーは、サトーホールディングスの子会社(デザインプロモーション株式会社)となり、代表取締役社長に就任。2020年、本事業は子会社に吸収合併。

 現在もデザインプロモーション推進部の部長として消費者アンケートに基づく商品パッケージデザインを顧客企業に提案するデザインプロモーションのビジネスを継続。新規事業部も兼任。

 渡部さんにとって「使えない上司・使えない部下」とは。

(pixomedesign/gettyimages)

社内から嫉妬ややっかみ? いいえ、感じません

 社内ベンチャーに関わるようになった当時の役職は主任です。まずは、1人で事業を立ち上げようと思い、本部に提案をしたところから始まります。それが認められ、企画をより具体化し、1人でプロジェクトを動かすようになりました。事業として採算があると本部で判断され、正式に社内ベンチャーにしないかと声がかかったのです。

 きっかけは、新卒で配属された営業部の時の経験です。当時、消費財の商品パッケージのデザインや印刷の営業をしていました。この業界はコモデティ化しており、コスト勝負の消耗戦が繰り広げられていました。会社としての強みや差別化を構築しなければ、携わる社員は疲弊し、事業の存続も危ういのではないかと強い危機感を持ったのです。

 そこで、印刷だけを単純に請け負うのではなく「このデザインをこうしたら、このくらい売れる」と数値的な裏付けをしたうえで、顧客の課題解決に繋がるような商品パッケージを「提案・コンサルする」事業に変化させたいと考えるようになりました。      

 同時に、提案における裏付けの知識を獲得したく、2013年に早稲田大学大学院経営修士課程(MBA)に入学し、2年間学びました。平日の退社後と週末に通い、学ぶのは大変でしたが、とても充実していました。

 主な教科は経営学、マーケティング、統計学、ファイナンス、財務経理など11科目。講義では、教授や学生間で頻繁にディスカッションをしますので、毎回、2~3時間の予習をして講義に臨みます。帰宅後は大量の文献を読んで、レポートを書きます。提出期限があるので書き終えるのが深夜に及ぶことも頻繁にありました。数時間眠り、早朝に出社し、定時まで勤務します。体重は一時期10キロ減ったほどです。

 在籍中の2013年に社内ベンチャーを立ち上げ、全カリキュラムを修了した2015年にグループの子会社としてデザインプロモーション株式会社を設立。社長に就任しました。主な事業は、商品パッケージの総合プロデュースサービスです。

 このような本格的な社内ベンチャーの試みが認められたのは、女性では私がはじめて。私とデザイナーの2名でのスタートでした。

 社内から嫉妬ややっかみ? いいえ、感じません。そのことで悩んだ記憶もありません。当時から、事業成長のことばかりが気になっていました。やっかみがあったとして私が悩んでいても、事業が発展するわけではありませんから…。事業に関係のないことは、無意識のうちにシャットアウトしている気がします。

 それまで私は部下を持ったことも、チームを動かした経験もありません。それでも、創成期は上手くいったように思います。この時期に人事異動や中途採用を経て集まる社員は、必要以上に指示をされることを好まない自立心・自主性の高い人ばかり。ですから、上司と部下というより、同じビジョンを持つパートナーであることを意識しました。特に大切なのは、トップがビジョンとビジネスモデルを明確にし、メンバーを管理するのではなく、その2つをしっかり共有することです。あとは相手を信頼して自由に動いてもらう。これがポイントだと思います。

 事業の創成期や拡大期に入る手前では、ヒト・モノ・カネなどの経営資源やビジネス運営において、この時期特有の様々な問題がおきます。社内ベンチャーですから、親会社の経営幹部に経営資源の配分について説得したり、ビジネス課題の解決策に対し、意見を求めることがあります。その際に壁を感じることはありました。僭越かもしれませんが、経営幹部は会社の成長期・安定期にキャリアを積まれた方が多いので、組織を安定的に動かすことは非常に長けている一方で創成期特有の問題に対する経験値は少ない。それだけに、私がこの時期に相談をする方は少なかったように思います。それでも、とてもありがたい助言や指導をいただいた方ももちろんいます。


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