2024年4月20日(土)

WEDGE REPORT

2021年4月7日

国民の3割占める少数民族の存在感

 ミャンマーでは、主に仏教徒のビルマ族が国民の約7割を占めているものの、カレン族、シャン族、カチン族などを始めとした少数民族が135にも及んでいると言われている。これらの少数民族は、1948年の独立直後から自治権の拡大や民族間を超える平等を求めて、国軍と衝突を繰り返してきた。この背景には、歴代の政府が多数派のビルマ族を優遇し、少数民族の土地にビルマ人を移住させるなどの政策が取られてきたことがある。国境沿いを中心に、ミャンマーの国土の実に3分の1が武装勢力によって支配されているとの統計もあり、人口の3割を占める少数民族の影響力は決して無視できないものだ。

 2016年にアウンサンスーチー氏率いる国民民主連盟・NLD政権が発足した後は、最優先課題の一つとして少数民族との和平が掲げられたものの、自治権などを巡って完全な合意が得られることはなく和平交渉は停滞してしまった。NLDが主導する和平協議に対して国軍が協力的でなかったことが理由の一つとして挙げられる。しかし、ここへきて、「国軍」という共通の敵を前に、俄かに少数民族とビルマ族との連帯の空気が醸成され始めている。

 この多数派のビルマ族と少数派民族の間の「連帯」の動きは、国際社会からも大きく非難を浴びてきたイスラム系少数民族ロヒンギャとの間にさえも起きた。

 ロヒンギャの難民キャンプから続々と、民主化に向けた市民の抗議運動を指示する写真がフェイスブックなどに投稿され、3本指を立てて連帯を示すロヒンギャの姿が拡散されると、ミャンマー市民からは「これまでロヒンギャについて声を上げなくてごめんなさい」などの声が相次ぎ、さらには、学生連盟などが正式なロヒンギャへの「謝罪文」を公開するという、クーデター前からは考えられない、異例の事態が起きている。

少数民族出身のササ氏が「革命の顔」として発信

 こうした少数民族との間の動きは、政治的思惑をはらみながら国軍とNLD側双方において意図的に行われてもいる。NLDの議員らがクーデター後に臨時政府のような形で設置した「連邦議会代表委員会(CRPH)」は、これまでに(3月17日)、すべての武装勢力について非合法組織の指定を解除するとの声明を発表、抗議活動を続ける市民を保護していることへの感謝の意を表すなど、積極的な姿勢を見せている。さらに「CRPH」は、少数民族が長年にわたって要求してきた連邦制民主国家の樹立を約束しており、少数民族に対して「共通の敵」である国軍への明確な共闘姿勢を打ち出している。

 特に注目されているのは、チン州出身の少数民族である医師、ササ氏の「国連特使」としての起用だ。ササ氏は、欧米メディアを始め、フェイスブックやツイッターなどのソーシャルメディアでも積極的に海外に向けての発信を担うなど、革命の「顔」として活躍しており、国軍に対抗する姿勢を打ち出しながら少数民族の支持拡大を狙う「CRPH」側の戦略は明らかに功を奏しているように見える。

 事実、歯に衣着せぬ発言で、国軍への強い非難も辞さず、連帯を呼びかけるササ氏のソーシャルメディアのアカウントは、民族や宗教に関係なくミャンマー人から今、絶大な支持を集めており、彼が発する文言は瞬く間に拡散されている状況だ。国軍が政治関与への理由付けとして掲げてきた少数民族の武装組織鎮圧に対し、和平を促進することにより国軍統治の必然性を崩していき、国際社会による支援をさらに取り付けたい背景もある。

 ササ氏は既に、南東部のカイン州に多いカレン族の自治拡大を求め国軍と衝突してきた武装組織カレン民族同盟(KNU)の代表や、北東部のシャン州、西部のチン州の武装組織の幹部とも相次いでZoom会談を行ってソーシャルメディアを通じて報告をし、ビルマ族だけでなく少数民族からも非常に好意的に受け止められている。


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