WEDGE REPORT

2021年4月7日

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海野麻実 (うんの・あさみ)

記者、映像ディレクター

東京都出身。2003年慶應義塾大学卒、国際ジャーナリズム専攻。”ニュースの国際流通の規定要因分析”等を手掛ける。卒業後、民放テレビ局入社。報道局社会部記者を経たのち、報道情報番組などでディレクターを務める。福島第一原発作業員を長期取材した、FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品『1F作業員~福島第一原発を追った900日』を制作。退社後は、東洋経済オンラインやYahoo!Japan、Forbesなどの他、NHK Worldなど複数の媒体で、執筆、動画制作を行う。取材テーマは、主に国際情勢を中心に、難民・移民政策、テロ対策、民族・宗教問題、エネルギー関連など。現在は東南アジアを拠点に海外でルポ取材を続け、撮影、編集まで手掛ける。取材や旅行で訪れた国はヨーロッパ、中東、アフリカ、南米など約40カ国。

少数民族武装勢力の懐柔に国軍も躍起

 だが、少数民族の懐柔に躍起になっているのは、国軍も然りだ。クーデター直後から国軍は、武装勢力との和平実現を優先政策として掲げ、最高意思決定機関「行政評議会」のメンバーに少数民族出身者を登用。そのメンバーには、モン州やシャン州出身の少数民族のほか、国軍との間で戦闘を繰り返してきた、西部ラカイン州の武装勢力アラカン民族党(ANP)の出身者も含まれていた。

 さらに3月に入ってからは、国軍が大規模な掃討作戦を行うなど、激しい戦闘を繰り広げてきたラカイン州の武装組織「アラカン軍(AA)」のテロ組織指定を解除するなど、大胆な動きにも打って出た。そうした経緯もあり、アラカン軍は、民衆による抗議を大々的に支援するカレン民族同盟などとは異なり、しばらくその態度を明確にしてこなったわけだが、ここへきて、中国国境付近を拠点とする「タアン民族解放軍」(TNLA)と「ミャンマー民族民主同盟軍」(MNDAA)と共に、声明を発表。「もし市民の殺害を続けるならば、『春の革命』を掲げる市民とともに立ち上がる」として、軍が市民への残虐な弾圧をやめない限り、報復を辞さないと警告した。これは国軍にとって大きな誤算であるとも指摘されている。

 事実、国軍は先月31日、翌4月1日からの1カ月間に渡る停戦を一方的に宣言。「武装勢力から新たな攻撃がなければ、軍事作戦は1日から1カ月停止する」と発表し、混乱する事態になんとか手立てを打とうとするような動きを見せたものの、「政府の安全を妨げる行為に対する防衛」は停戦対象外としており、市民らへの武力行使が収まる兆しは見えない。

 むしろ、今や複数の武装組織が「民主主義を掲げる市民の抗議デモを支援する」として市民を守るだけではなく、反撃も辞さないプロアクティブな態度を表明していることから、これまで非暴力が掲げられてきた民衆による抗議運動は、武装組織を交えた国軍との報復の応酬へと異なる様相を呈してくる懸念が高まっている。こうした状況が、先般の安保理での「内戦」への発展に対する深刻な指摘に繋がっている。

激化する「内戦」の様相呈し始めたミャンマー情勢

花を一輪手にそっと持ち3本指で抵抗を示すフラワーストライキ (ミャンマー市民提供)

 現に、暴力の連鎖は始まっている。

 「国軍記念日」の式典が開かれた先月27日、抗議デモを行う市民らを警護するなどしてきたカレン族が自治を行う地域の村が空爆され、複数の死傷者が出た。これにより、住民3000人以上が隣国タイに避難をする事態となり、情勢は緊迫さを増している。さらに、冒頭述べたように、国軍は自ら停戦を無視して1日、再び空爆を行うなどもはや戦闘態勢に入ることを辞さない構えにも映る。カレン民族同盟側が停戦協定を破って、国軍の基地を攻撃したことへの報復だと強調しているが、非暴力での抗議を持ってして、犠牲者が後を絶たない現実に、次第に市民の側でも「戦わざるを得ない」との意思を固くする人々が出てきていることも確かだ。

 ヤンゴン出身の女性はソーシャルメディア上で、「もう既に内戦は始まっているのです。私たちは戦わなければならない段階に来ているのかもしれません」と投稿。女性や子供までもが犠牲になる残虐な攻撃も辞さない国軍の態度を前に、手段を失った一部の市民らが少数民族側の武装組織に入って訓練を受け始めたという報道もされ始めている。

 奇しくも、2日、ミャンマー市民らのソーシャルメディア上は、美しい花の写真で溢れた。「フラワーストライキ」——若者たちによって呼びかけられたこのストライキでは、可憐な花を一輪、抵抗を示す3本指の中にそっと抱えて撮影した写真が次々に静かに投稿され、犠牲になった英雄たちへの思いを込めて手向けられた。暴力を望まない、ただ民主主義を求めて戦う市民らの心は果たして通じるのか。

「ミャンマー国内ではもう立ちゆかない問題です。国際社会の皆さんの声が必要なのです。もう事態は一刻の予断も許さない状況です」ソーシャルメディアを通じて世界へ向けて懸命に訴えるミャンマー市民らの声が今、重く響く。

  
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