2024年12月27日(金)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2021年4月28日

 3月30日に米国務省は、国別人権状況に関する年次報告書を発表した。報告書は、中国共産党政府によるウイグル族の虐待はジェノサイド(集団虐殺)であると断じた。これを受けて、4月2日付のワシントン・ポスト紙は、世界的な大企業は北京オリンピックのスポンサーであることを止めるべきであると主張する社説を掲げている。

roxanabalint / iStock / Getty Images Plus

 2022年の北京の冬季オリンピックをボイコットするよう求める声は、今後ますます高まる可能性はある。が、それが具体化するかどうかとなると、おそらく困難であろう。北米および欧州の諸国にとって、冬季オリンピックは夏のオリンピックよりも遥かに重要である。過去23回の冬季オリンピックを通じて、北半球の10の諸国(米国、カナダ、ノルウェー、ドイツ、オーストリア、スウェーデン、スイス、オランダ及びソ連、ロシア)が1060個の金メダルのうちの748個を獲得したという。従って、北米と欧州が欠けた冬季オリンピックは成り立たない。それだけにボイコットは北京を痛撃することになるが、逆に、それ故に、北米と欧州の選手に犠牲を強いるボイコットを実現することは至難と言えよう。

 ボイコットを求める声に対して、国際オリンピック委員会(IOC)のバッハ会長は、オリンピック運動はそれ自身の領域でのみ活動するものだと言い、「我々は超世界政府ではなく、安保理、G7、G20が解決策を持たない問題について解決しあるいは対処し得る筈もない」「それは政治の領域である」と述べている。

 ワシントン・ポスト紙は、米国及びその他民主主義諸国はジェノサイドに手を染める中国でのオリンピックにどう対処するか検討の必要があるとし、もし参加するのであれば、中国の人権蹂躙を是認しない形を見出す必要があると2月15日付でも論じたことがある。4月2日付のワシントン・ポスト紙の社説は、その一つの方策として、スポーツ選手の参加拒否という形のボイコットではなく、最高水準のスポンサー・プログラムであるOlympic Partner Programme に名を連ねる企業(15の企業が名を連ねるがブリジストン、パナソニック、トヨタが含まれている)がこれを撤回し、資金面での協力を止めることを主張している。確かに、ウイグル族の虐待や香港での自治の破壊と人権の蹂躙など、中国の行動がこれ程までに問題視されている時に、何事もなかったかの如く北京オリンピックに参加して、中国の国威発揚と中国共産党の正統性の証明に手を貸すことには如何にも釈然としないものを感じる。そういう形でのボイコットであっても、中国が報復に出るだろうとの問題はあるが、この種の方策は検討に値するように思われる。

 3月15日付のニューヨーク・タイムズ紙では、ミット・ロムニー上院議員(共和党、ユタ州選出)が、ソルトレーク冬季オリンピック組織委員会の会長としての経験を踏まえて、北京冬季五輪のボイコットの方法を提案している。ロムニー議員は、選手の参加を止めることは間違いだとして、経済的・外交的ボイコットを提案している。即ち、米国民は米国にとどまりオリンピックの観客にならないこと、米国企業は顧客をオリンピックに招待することを止めること、政府高官が参加することは控えること、TV放送権を有する NBCが開会式や閉会式の好戦的愛国主義の場面の放映を控えることなどである。

 いずれにせよ、何等かの形のボイコットが具体化することがあるとすれば、それは目下立場を定めていないバイデン政権が方針を固める場合であろう。もし、行動を起こすのであれば、バイデン政権は予め同盟諸国に協議して来ることが予想される。現下の情勢は、北京オリンピックを間近に控えて、中国は台湾や東シナ海あるいは南シナ海で侵略的行動に出づらい状況だと思われる。が、北京オリンピック後は危険性がさらに大きくなるだろう。ボイコットが及ぼす中国へのインパクトについては、中国が過剰な報復に出る可能性も含めて、同盟諸国間で慎重に計算する必要があろう。

  
▲「WEDGE Infinity」の新着記事などをお届けしています。


新着記事

»もっと見る