全国人民代表大会(全人代)の常務委員会は3月30日、香港の選挙制度改革について全会一致で可決した。その内容は、香港の選挙について民主派の関与させないようにするも、1国2制度を有形無実化するものだった。また、香港政府の林鄭月娥(キャリー・ラム)行政長官は選挙制度の関連法案について立法会に4月14日に提出するとコメント。立法会は親中派が多数を占めており、大きな混乱もなく法制化されると見込まれているが、今後の香港の行方は?
当初想定されたものとは異なるものになった1国2制度
香港の選挙制度の変更について亜細亜大学アジア研究所の遊川和郎教授は「それでも中国政府は、“香港は1国2制度である”…と言うでしょうが、当初想定されたものとは全く異なるものになりました」という見解を示す。改革開放以後の高い経済成長や新型コロナウイルスにおける対策で民主主義国家よりも感染拡大を抑え込んだことで、中国政府のトップは、自らの統治体制に自信を深めている。
彼らは香港の1国2制度は正しい道を歩いていると確信している一方で、2020年に制定された香港国家安全維持法からの一連の動きは急だ。なぜそこまで急ぐのか? 遊川教授は「1年延期された立法会選挙と2022年に行われる行政長官選挙までに決めておく必要がありました。また、アメリカからのさまざまな経済的制裁や西側諸国からの非難に対して屈しないという姿勢を国民に示す必要があったのです」と分析する。最終的に全人代が決めた選挙制度改革の内容をみると、2021年12月に第7回立法会選挙、2022年3月に行政長官選挙が実施される予定になっている。
林鄭長官はひたすら「民主派を排除するものではない」と記者会見で強調し、新中派の議員なども同類のコメントし、1国2制度は死んでいないことをアピールするが「林鄭行政長官の発言は、誰も本気で取り合わないのではないでしょうか。彼女は中国に言われたことをやってるだけですから」(遊川教授)
民主派が立候補できるかは国安法で設置される「資格審査委員会」が決める
選挙制度改革についての概要が書かれた冊子は、中国語版、英語版ともに23ページにわたって書かれているが、その内容を見てみると、基本法にある付帯条項1と2を改訂することで実施される。
行政長官選挙では選挙委員による投票で当選が決まるが、1200人から1500人に増やされる。そこには区議会議員票が割り当てられていたが、それが廃止される。2019年の区議会議員選挙で圧勝した民主派は票を失うことになる。また、立候補するにはこれまで最低150人の選挙委員の推薦が必要だったが、次回からは188人に増え、しかも「工商・金融界」など定められた5つの業界団体すべてから最低15人の推薦がいることになった。各業界は中国とのビジネスの関係から親中派が多いため、彼らから支持を取り付けるのは困難を極める。
立法会は、業界団体から選出される職能別35議席、直接選挙が35議席の計70議席だったが、今後は職能別が30議席、直接選挙が20議席に減らされた上で、選挙委員会用の議席とうのが40議席というのが創設され、合計は90議席となった。立候補も推薦人の数が100人から200人に増えるなど、立候補するのも大変になった。
決定的なのは両選挙での立候補者について中国政府は「愛国者でなければならない」と、中央政府を支持する人のみが立候補できるようにし点だ。国安法で新たに設置される「資格審査委員会」が中国政府への忠誠がない判断した場合、立候補は認めない。この判断に対して訴訟などで異議を申し立てもできないため、民主派が過半数を占めることはほぼ絶望的になった。
香港中文大学政治與行政学部の蔡子強高級講師は『明報』という新聞の取材に対して「一番、楽観的に考えても最大で16議席程度」と全議席の20%に届かないと推測。遊川教授も「資格審査委員会が立候補についてどこまで厳しい判断をするかは現時点では不明ですが、蔡氏の指摘通り、直接選挙で10、職能別の第2分類の個人投票で6の合計16議席というのは妥当なところでしょう」と同意した。