中国の圧力を感じる日々感じる香港市民
香港市民は中国の圧力が大きくなっているのを日々感じている。香港は今や芸術品の売買のマーケットにおいて世界屈指の規模を誇っている。今年オープン予定の「M+」という現代美術館に、中国政府に拘束されたこともある中国人芸術家の艾未未氏の作品や天安門事件の写真が所蔵されているが、それは国安法に抵触するのではないか? と親中派議員が批判。林鄭行政長官も「国安法に違反した場合、当局は警戒態勢をとる」と警告した。
日本でもニュースになった新疆ウイグル自治区で作られている綿での人権問題。アディダス、ナイキ、H&Mなどに対して不買運動が中国本土で発生しているが、これらのブランドとイメージキャラクターとして契約している香港人芸能人は契約解消をすると次々表明した。彼らの政治信条は不明だが、中国市場なしでは芸能活動はほぼあり得ないため、選択肢はなかった。
また、2021年4月25日(現地時間)に行われる第93回アカデミー賞の放送について今年はどの局も放送しないことが明らかなった。世界に名だたる香港映画の街においてアカデミー賞を放送しないのは約50年ぶりだという。短編ドキュメンタリー部門に、香港で起きた民主化運動に関するドキュメンタリー『不割席(Do Not Split)』がノミネートされたことが原因と言われている。
中国資本にとって代わったとしても、香港のままでいられるのか…
以前執筆した『香港をめぐる「英中対立」の真相』の記事で武蔵野大学法学部政治学科の中園和仁教授が「習近平は香港のシンガポール化を狙っているのです。香港政府としても民主主義なき繁栄を目指していると思います」と話していた。
そうなると、2つの動向が気になる。1つは香港に進出した海外資本だ。彼らが香港を離れるというニュースは現時点では流れてはいないが、今後の影響について遊川教授は「これに関してまだわからない面がありますが、選挙自体の影響よりも、中国が露骨に介入してくるリスクを感じざるを得ないでしょう」と言う。
北アメリカ出身で、香港でIT企業を経営したジェニファーさん(仮名)は「今のところビジネスに支障はきたしていません。以前は香港でずっとビジネスをしていきたいと考えていましたが、将来も香港でビジネスをし続けるかどうかと聞かれるとちょっと自信がないですね」と遊川教授の言葉を裏付けるような考えを発した。
もう1つは、香港資本だ。国安法ができ、選挙制度改革が終われば、今度は世界とつながっている香港の経済の蜜を吸いに来てもおかしくない。政治面で中国に忠誠しなければならないという意味は、経済面でも中国に忠誠を誓う企業のみが優遇されるだろう。中国のIT企業最大手の阿里巴巴(アリババ)集団に対し、独占禁止法違反で182億2800万元(約3050億円)の罰金を科したぐらいであるから、香港企業に対してはもっと厳しい忠誠を求めるはずだ。
香港・マカオ・広東省を1つの経済圏とする「大湾区」構想を中国政府は立ち上げ中国と香港経済の一体化を図り、香港経済をより中国依存にさせる方策を取っている。いずれ香港資本はマイナーな存在に追い込まれ中国資本が取って代わる可能性があるが、では外国企業が中国資本と一緒に仕事をしたいと考えるのか? かなりチャレンジングな問題だろう。
民主が死んでいく香港であるが、親中派の政治家でさえ、言論の自由を謳歌し、資本主義の街で蓄財をするなど人生をエンジョイしてきた。彼らの政治信条は中国政府寄りでも生活基盤は自由が基本だった。そのくらい香港のDNAに自由というものが根付いている。
つまり、中国政府が中国のやり方を香港に持ってくると、「立法会で35議席以上を獲得しよう」という動きが起こったほか、最近では民主派の支持者の一部はインターネット上で「不満を表明するために選挙では白票を投じよう」という声をあげるなどいった「副反応」が常に生まれ続けている。アメリカもことあるごとに横やりを入れてくるだろう。中国政府による統治を拒否する香港市民はゼロになることはない。逆を言えば、中国政府はそんな香港をちゃんと統治できるのか腕の見せ所ではあるが果たして…。
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