12月25日付のワシントン・ポスト紙に、同紙コラムニストのジョシュ・ロウギンが、 「チベットにおける中国の残虐行為はあまりにも大きくなりすぎ、無視できない」との論説を書いている。
2020年、中国共産党は文化ジェノサイド、政治教育、強制労働のための最初の実験場であるチベットに、大きな軍隊的キャンプを建設した。ロブサング・サンゲイ(チベット亡命政府大統領)によれば、6か月の間に、この新しい再教育施設に50万人以上のチベット人が強制収容させられた。ジェームスタウン財団の9月の報告書には、強制収容所で再教育されたチベット人数千人の農民が中国の他地域の工場などに「貧困の緩和」のために送り出されたと記されている。サンゲイによると、北京の目的は、①チベットの土地を収用し、その資源を商業化すること、②チベットの文化、言語、宗教を消滅させ、チベット人を強制的に同化すること、③チベット人を低賃金で働かせることにあると言う。
チベット問題は他の問題に埋もれ、忘れられがちになるが、米国の議会がチベット政策・支援法を可決成立させたことは、チベット問題への関心を喚起するうえで効果がある。新疆で行われているウイグル弾圧と似た状況が、まだ規模や厳しさはウイグル弾圧ほどではないがチベットでも始まっている。
バイデン政権が対中関係に配慮して、ダライ・ラマとの会談を躊躇するようなことがあってはならないというロウギンの議論は正当であり、人権問題を重視するバイデン次期大統領には届くのではないかと思われる。
中国は、首脳がダライ・ラマに会った国に対しては、貿易その他の制裁を加えるのが常であるが、こういう力を振り回す中国外交に屈することは、ロウギンが言うように中国を益々増長させることになる。民主主義国の指導者が誰に会うかについて、中国に発言権があるような状況はなくしていくべきである。バイデンは「民主主義の同盟」を提唱しており、ダライ・ラマとの面会についても民主主義国の指導者は会うという合意を作り、中国の各個撃破戦術を抑え込んでいくのが良いし、各国の利益になると思われる。
ダライ・ラマは1935年生まれで、今は85才である。次のダライ・ラマ15世は、今のダライ・ラマ14世の転生した人でなければならないが、それを認定するのは今のダライ・ラマ14世が任命したパンチェン・ラマ11世でなければならない。しかし、パンチェン・ラマ11世は中国当局に連行された後、行方不明である。それで、ダライ・ラマはチベット仏教のゲルク派の高僧の中から指名、もしくは選挙で後継者を選ぶという意向と伝えられている。中国政府は、中国が任命したパンチェン・ラマに指名させることを考えている可能性があり、新ダライ・ラマ任命には中国の許可がいるとの法律を作っている。
チベット問題はこの後継者問題でさらに大きなヤマを迎えることになるが、その時期は近づいている。
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