2024年5月6日(月)

故郷のメディアはいま

2012年10月16日

 前者では探偵役のタレントだけではなく、音声や照明の技術スタッフも依頼人宅を訪問。ただピンマイクをつけてやったのでは本人のためにならないと、男の子が探偵さん(Mrオクレ)や母親の応援を受け、苦手な自転車の一人乗りに挑戦した。「誰にも支えてもらわずに50メートル乗れたら、本物のピンマイクをつける」というわけだ。探偵さんが公園で乗り方をコーチしても上手くいかない。「怖がっていますね」と母親。それでも男の子は必死である。転んで泣いてまたサドルに跨る。何とかこぎだし数メートル行くがダメ。徐々に暗くなっていくと照明さんが周辺を照らす。やがて50メートル達成し、本人は音声スタッフからピンマイクをつけてもらいうれし泣き。探偵さんやスタジオはもらい泣きの図とあいなった。

 後者では、550メートルの距離をハイハイで行くことに。道路に厚手のビニールシートを敷き、手袋に膝当てと完全防備の双子はスタート。両親は傘をさしたり体調を気遣う。向こうから手をつないでやってきた母子が、物珍しげにその様子を見守る。双子がぐずったり前に進まないと、近所に住んでいるが親しくしているわけではない母子やまったく関係ない通りすがりの乳幼児が“助っ人”としてバトンを受け、前に進む。探偵さん(麒麟の田村裕)が「大人の事情があってね」と弁明したり、「ありがとうね」と感謝する。燃え尽きたように熟睡モードに入る赤ちゃんがいる一方で、女の子が逞しく前に進む。買い物客で賑わうスーパーの店内などを通り、3時間12分で保育園のゴールした。

東京の視聴者からは批判の声も

 「ハイハイで保育園」には東京の視聴者から「熱い日中にあまりにも無謀。虐待ではないか」との意見・苦情が寄せられたという。ところが、関西では「良かったね」。番組を通じて同世代の母子ネットワークも出来た。同じ番組でも、関東と関西ではこうも反応が違うものかと思う。

 番組を基に東西における言葉・文化・生活習慣の違いをまとめたのが、93年7月に刊行された『全国アホ・バカ分布図考―はるかなる言葉の旅路』(太田出版、新潮文庫)だ。そのもととなったのは「アホとバカの境界線を探せ」(1990年1月放送)で、書籍には、視聴者からの情報提供、全国の市町村へのアンケート調査、スタッフとアンケート回答者とのやりとりなどが盛り込まれ、原稿を書いている途中に方言学の学会「日本方言研究会」でその研究成果を発表したほどである。学会を巻き込んだメディアミックスを展開した番組は、後にも先にも『探偵!』くらいのものだろう。

 自由闊達な雰囲気を醸し出す大阪の老舗局ABC。.同局は1956年12月にテレビ放送を始めたラ・テ兼営局だが、その歴史はキー局のテレビ朝日の前身日本教育テレビよりも古い。

 『てなもんや三度笠』『プロポーズ大作戦』『新婚さん、いらっしゃい!』『必殺仕掛人』『驚きももの木20世紀』などの番組で知られるが、報道・情報系番組の視聴率が高いことでも知られる。『ニュースステーション』から現在の『報道ステーション』に至る平日夜の報道番組は、関東より関西の視聴率のほうが高い。平日朝のローカル報道・情報番組『おはよう朝日です』を始めとするブランド戦略がしっかりできているのだ。『探偵!』を除く娯楽番組制作の軸足は東京に移しているが、大阪発の番組は、放送文化の多様性を測るバロメータになっている。

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