野嶋剛が読み解くアジア最新事情

2021年6月2日

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野嶋 剛 (のじま・つよし)

ジャーナリスト

1968年生れ。ジャーナリスト。上智大学新聞学科卒。大学在学中に香港中文大学に留学。92年朝日新聞社入社後、佐賀支局、中国・アモイ大学留学、西部社会部を経て、シンガポール支局長や台北支局長として中国や台湾、アジア関連の報道に携わる。2016年4月からフリーに。著書に『イラク戦争従軍記』(朝日新聞社)、『ふたつの故宮博物院』(新潮選書)、『謎の名画・清明上河図』(勉誠出版)、『銀輪の巨人ジャイアント』(東洋経済新報社)、『ラスト・バタリオン 蒋介石と日本軍人たち』(講談社)、『認識・TAIWAN・電影 映画で知る台湾』(明石書店)、『台湾とは何か』(ちくま新書)。訳書に『チャイニーズ・ライフ』(明石書店)。最新刊は『タイワニーズ 故郷喪失者の物語』(小学館)。公式HPは https://nojimatsuyoshi.com

6月前半が一つのタイミング

 それにしても何より重要なのは、供与実現までのスピードであろう。日本のワクチン提供について、28日の記者会見で問われた陳時中・衛生福利部長は「早ければ早い方がいい。遅れてしまうと意味がない」と語った。その語り口調がいささか突き放したものだったことが一部の関係者の間で憶測を呼んだため、衛生福利部はすぐさまプレスリリースで日本への感謝を述べ、蔡英文総統もその日の夜にツイッターで「その深い友情に、心から感謝します」と日本語で投稿した。

 ただ、実際のところ、台湾では8月からの国産ワクチン供与を控えて、6月と7月のこの空白期をいかにしのぐかが政治的にも感染対策的にも大きな課題になっており、できる限りスピーディな提供が求められているのは確かだ。ワクチン確保をめぐって台湾政府も独自ルートで入手を急いでいるほか、米国へも支援を求めている。一方、親中派の企業家や民間団体、宗教団体が中国製ワクチンや外国のワクチンを独自に入手できるという意思表明を相次いで行なっており、蔡英文政権に強いプレッシャーを与えている。

 もし他から大型の供与が実現したときは、日本のワクチン支援はそこまでは大きな政治的効果は生まないことになる。人道的な支援という最大の目的に加えて、近年の東日本大震災や熊本地震、台南地震や花蓮地震など、大きな災害のたびにお互いに支援を展開する日台間の新たな明るい話題にしたいというプラスアルファの政治的効果を狙うのであれば、日本からの提供は6月前半が最善のタイミングになるのではないだろうか。

 ワクチンを受け取る側である台湾の事情もないわけではない。台湾では、連日、日本からのワクチン提供のニュースが報じられ、注目度は高い。台湾では急速な感染拡大によって、早急なワクチン確保を求める国民の世論が一気に高まっていたからだ。

アストラゼネカ製は海外輸送に便利

 一方で、日本が使用を控えているアストラゼネカのワクチンを台湾に提供することについて、日本側としては「せっかく確保したものなので有効に活用するためにも困っている台湾に差し上げたい」という善意の気持ちからの行動であったとしても、台湾のSNSなどでは「日本が危険だから使わないワクチンを台湾に与えるというのか」という声が一部で上がっている。ただ、台湾では正式にアストラゼネカのワクチンを政府承認し、輸入したアストラゼネカワクチンの接種も行なっているので、拒否反応は強くならない可能性が高い。

 こうした問題を気にしてか、河野大臣は先のテレビ番組で「ファイザーとモデルナは非常に低温で保管・運搬しないといけない。アストラゼネカは冷蔵庫で保存でき、その程度の冷蔵で運搬もできる。一番使いやすいアストラゼネカを台湾に少し支援したらどうか、という議論になっている」と述べて技術面での海外輸送の便利さを強調し、「余ったワクチン」という指摘を受けないように予防線を張っている。

  
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