2024年12月9日(月)

野嶋剛が読み解くアジア最新事情

2021年3月30日

中国が台湾産パイナップルを禁輸したことを受け、購買を呼びかける蔡英文総統(REUTERS/AFLO)

 台湾のパイナップルが突然、最大の輸出先である中国から「禁輸」された問題は、中台関係の悪化による中国の「制裁」が、フルーツ王国として知られる台湾の農業分野にも及んできたと受け止められた。一方で、日本では台湾パイナップルの購入運動が広がるなど、国際的な波紋を広げている。パイナップル禁輸騒動の背後には、14億人の巨大市場を利用する中国外交のあり方に対する世界の困惑と反発がある。

 一通のファックスが台湾全体を震撼させた。届いたのは2月25日。台湾のパイナップルから害虫が検出されたとして、3月1日から台湾産の輸入を禁止するという中国の税関「海関総署」からの通告だった。台湾側は中国向けの99.8%がこれまで検疫に合格しており、検出されたとしても燻蒸消毒で対応ができると反論したが、中国側の措置は変わらなかった。

緊張高まる中国と台湾

 中国の習近平指導部は、台湾に「一つの中国」原則を呼びかけているが、蔡英文・民進党政権は拒絶している。対話は凍結状態になっており、中国軍機による台湾の防空識別圏侵入が連日のように行われるなど緊迫した局面も多い。蔡英文政権は米国との安全保障などでの関係強化を図り、さらに中国は反発するという悪循環だ。

 そんななかでの禁輸措置だけに、台湾側は貴重な外貨獲得手段であるフルーツをターゲットにした新たな「制裁」と受け止めた。その背景にあるのは、中国による「市場」を人質にして外交圧力をかける手法が、近年繰り返されてきたことがある。

 過去にも、ノーベル平和賞を劉暁波に与えたノルウェーに対するサーモン禁輸、南シナ海の南沙諸島領有権で対立したフィリピンへのバナナ禁輸、そして最近では新型コロナに関して中国を批判したオーストラリアの牛肉やワインへの輸入制限など、中国はいずれも対立を抱えた相手に対して、農産品などの輸入問題に絡めてプレッシャーをかけている。


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