Wedge REPORT

2021年7月7日

»著者プロフィール
閉じる

出井康博 (いでい・やすひろ)

ジャーナリスト

1965年、岡山県に生まれる。ジャーナリスト。早稲田大学政治経済学部卒業。英字紙「ニッケイ・ウイークリー」記者、米国黒人問題専門のシンクタンク「政治経済研究ジョイント・センター」(ワシントンDC)客員研究員を経て、フリー。著書には、『移民クライシス 偽装留学生、奴隷労働の最前線』(角川新書)、『ルポ ニッポン絶望工場』(講談社+α新書)、『長寿大国の虚構 外国人介護士の現場を追う』(新潮社)、『黒人に最も愛され、FBIに最も恐れられた日本人』(講談社+α文庫)などがある。

『走れロム』(C)2019 HK FILM All Rights Reserved.

 日本に住むベトナム人の数は昨年末時点で44万8053人に達し、外国籍として中国人の77万8112人に次ぐ数にまで増えている。実習生や留学生として、出稼ぎ目的で来日するベトナム人が急増した結果である。

 そんな在日ベトナム人の間で、密かに横行している違法ギャンブルがある。「闇くじ」がそうだ。彼らが多く利用するSNSのコミュニティを通じて販売されている。

 日本人には、ベトナム人は「真面目で勤勉」とのイメージがある。しかし、実はベトナム人はギャンブル好きが多い。最も人気なのが闇くじで、「庶民なら、家族の誰かは必ずやっている」(在日ベトナム人男性)ほどだ。その習慣が、SNSによって在日ベトナム人社会へ持ち込まれている。

 そんな闇くじをテーマに、ベトナム社会の暗部を描いた映画が7月9日、日本で公開される。新進気鋭のベトナム人映画監督、チャン・タン・フイ氏(31歳)の「走れロム」である。

 共産党の一党独裁下にあるベトナムには、言論や表現の自由はない。新聞やテレビでも、政府に都合の悪いニュースは報じられない。そんな中、チャン監督は「走れロム」で、闇くじをはじめベトナム社会の多くのタブーに切り込んでいる。地上げや外国資本による土地買収、ストリートチルドレンなど、大手メディアが報じない問題を数多くも取り上げているのだ。

 筆者は先日、チャン監督にインタビューする機会があった。彼が映画に込めたメッセージを紹介する前に、まず日本人には馴染みのない闇くじについて少し説明しておこう。

世界で最も宝くじが盛んな国

 ベトナムは、世界で最も宝くじが盛んな国の1つだ。地域ごと、当選番号の発表が毎日ある。6桁の数字を当てるギャンブルで、6桁すべてから下2桁まで、それぞれに賞金がもらえる。ただし、こうした正規のくじを買うベトナム人は多くない。それよりもずっと闇くじの方な人気なのである。

 闇くじでも、正規くじの当選番号が採用される。ただし、当てるのは下2桁だけだ。3桁以上を当てた際の高額賞金がないぶん、オッズは70倍と高くなる。6桁を当てるのは無理でも、2桁ならば100分の1の確率で当たる。しかも賭け金が70倍になるとあって、なけなしの金をつぎ込むベトナム人が多い。

 もちろん、闇くじは買っても売っても違法だ。ベトナムの警察権力は日本の比ではなく、闇くじの取り締まりなど本気になれば簡単にできる。だが、何十年も放置されたままだ。そこにベトナム社会の病巣がある。

 ベトナムでは、賄賂と汚職が蔓延している。とりわけ警察を含め、公務員の腐敗ぶりはひどい。闇くじの横行が放置される原因としても、胴元や、くじの販売を担う「ジャンホー」と呼ばれるアウトローの連中が、賄賂を介して当局とつながっていることが疑われる。

 それにしても、ベトナム人たちの闇くじへの熱中ぶりは、日本人の理解を超える。「走れロム」でも描かれているように、何とか数字を当てようと、神のお告げに頼る人がいたり、予想屋稼業も成り立ったりする。また、くじにハマって借金をつくり、自殺する人も後を断たない。その理由をチャン監督に尋ねると、こんな答えが返ってきた。

関連記事

新着記事

»もっと見る