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2021年2月17日

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出井康博 (いでい・やすひろ)

ジャーナリスト

1965年、岡山県に生まれる。ジャーナリスト。早稲田大学政治経済学部卒業。英字紙「ニッケイ・ウイークリー」記者、米国黒人問題専門のシンクタンク「政治経済研究ジョイント・センター」(ワシントンDC)客員研究員を経て、フリー。著書には、『移民クライシス 偽装留学生、奴隷労働の最前線』(角川新書)、『ルポ ニッポン絶望工場』(講談社+α新書)、『長寿大国の虚構 外国人介護士の現場を追う』(新潮社)、『黒人に最も愛され、FBIに最も恐れられた日本人』(講談社+α文庫)などがある。

 コロナ禍で人手不足は緩和したとはいえ、一部の職種では低賃金の外国人労働者に対するニーズは依然として強い。その象徴が、外国人への入国制限緩和措置によって急増したベトナム人実習生たちである。

 ベトナム人実習生は昨年6月末時点で約22万人に達し、実習生全体の過半数を占めていた。そこに11月以降、緩和措置で3万2000人以上が新規に入国した。ベトナム人実習生には、1つの共通点がある。日本円で100万円近い借金を背負い来日していることだ。

(Golden_Brown/gettyimages)

 実習制度では、来日する人材に金銭的な負担を強いないよう定めている。事前の日本語研修の費用、また渡航費も、すべて日本で実習生を受け入れる企業が支払う決まりなのだ。だが、ベトナムでは政府が送り出し業者による手数料の徴収を認め、「3600ドル」(約38万円)という上限まで設定している。しかも、その上限を守っている業者はほとんどいないとされる。結果、実習生たちは借金をして、手数料を支払うことになる。

 送り出し業者が実習生から上限を超える手数料を取っても、罰せられることはない。「政府当局の担当者に賄賂を渡し、結びついている」とされるからだ。ベトナムで一党独裁体制を敷く共産党幹部の家族などが、業者を運営しているケースも少なくないという。日本への実習生の送り出しが、特権階級の収入源になっているというのである。

 新聞など大手メディアは実習制度について取り上げる際、「悪質業者を排除すべき」と主張する。しかし、実習生の送り出しが国ぐるみのビジネスと化しているベトナムのような国では、「排除」は簡単なことではない。

 実習生が支払う手数料の一部は、送り出し業者から当局担当者に渡される賄賂となる。加えてもう1つ、手数料が増える原因がある。日本で実習生を斡旋する「監理団体」に支払われるとされるキックバックだ。

 ベトナムでは実習希望者は多く、日本側の「買い手市場」となっている。送り出し業者としては、何とかして監理団体に多くの実習生を売り込みたい。そのため不明瞭なキックバックが横行しているという。

 ベトナムの首都ハノイの大手送り出し業者で幹部を務めるグエンさん(仮名・30代)は、その実態についてこう証言する。

 「キックバックの金額は、実習生が日本で就く仕事の業種によって差があります。比較的楽な仕事とみなされ、実習生に人気の高い『食品加工業』などでは、1人の受け入れにつき25万円を要求してくる監理団体もある。『農業』や『水産業』で10万円、仕事が大変で、人気が低い『建設業』だと5万円というのが最近の相場になっている」

 「技能実習法」では、監理団体について「営利を目的としない法人」と定められている。だが、そのビジネスモデルは人材派遣業者と何ら変わらない。実習生の就労先となる企業から「監理費」という名目で、1人につき月3万〜5万円程度を徴収する。監理団体の経営には民間の派遣業者などは関われないが、裏で関与していることもよくあるとされる

 そんな監理団体が、ベトナムでは送り出し業者からキックバックまで得ているというのだ。キックバックは現金で渡されるため、表には出ず、もちろん税金の対象にもならない。団体関係者にとっては、実においしい「利権」である。

 しかも、監理団体が送り出し業者に要求する利益供与は、キックバックに留まらない。実習生の面接でベトナムを訪れる際の渡航費や宿泊費まで、業者に求めてくる団体もあるとされる。また、団体関係者に対する接待も慣例となっているという。グエンさんにも、これまで何度となく日本人を接待してきたと証言する。

 「監理団体の人たちがハノイで宿泊するホテルは決まっている。ホテル内にカラオケバーがあって、女性を連れ出せるところです。私は飲み代までしか払わないが、接待の一環で買春費用まで支払う業者がいても不思議ではない」

 監理団体関係者へのキックバックや接待は、かつて実習生の送り出しの中心を占めた中国で根づいていた。その習慣を、関係者たちがベトナムへと持ち込んだのだ。監理団体の間で、ベトナムが〝人気〟である理由、そしてベトナム人実習生が急増している背景がわかってもらえるだろう。

 送り出し業者から監理団体へのキックバックや接待の費用、またベトナムの官僚へ渡される賄賂にしろ、すべて出所は実習生たちが背負う借金だ。そのため彼らは多額の借金を抱えて来日することになる。

 実習生が日本で働いて得られる賃金は、手取りで10万円少々に過ぎない。ベースとなるのは各都道府県の最低賃金で、そこから住居費などが引かれるからだ。結果、手っ取り早く借金を返そうと、職場から失踪して不法就労に走ったり、犯罪を犯すベトナム人が現れる。

 同じ実習生でも、たとえばフィリピン人の場合、失踪や犯罪はほとんど問題になっていない。ベトナムと同様、フィリピンにも送り出し業者は存在する。だが、手数料は日本側で彼らを受け入れる企業が負担し、ベトナム人ように多額の借金を背負うことがない。その差が、来日後の生活に大きく影響する。

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