政治家にとって「移民問題」を口にすることはタブーに近い。国民の間に「移民アレルギー」が強いとみなしてのことだ。
安倍晋三前首相も外国人労働者の受け入れを拡大する一方で、「移民政策は取らない」と強調し、移民問題への深入りを避けた。ただし、安倍政権下で、実質「移民」と呼べる外国人は増え続けていた。
「永住」の在留資格を持つ外国人は、同政権が誕生した2012年末からの7年間で約62万人から約79万人とへ増えた。さらに注目すべきなのが、「技術・人文知識・国際業務」(通称:技人国ビザ)の資格を有する外国人の増加である。
技人国ビザは、ホワイトカラーの仕事の就く外国人に対して発給される。在留期限は1年から5年まで幅があるが、ひとたび取得すれば、失業しない限り更新は簡単にできる。つまり、移民となる権利を手にしたも同然だ。その技人国ビザを有する外国人は、安倍政権下で11万1991人から27万1994人と2.5倍近くになった。
日本で就職する留学生は、9割以上が技人国ビザを取得する。同ビザを持つ外国人が増えているのも、留学生の就職増が大きく影響した。日本で就職した留学生は、12年には1万969人だったが、18年になると2万5942人まで増え、6年連続で過去最高を更新し続けている。「移民政策」のない日本で、移民や、その予備軍が増えているのである。
留学生の就職増は、安倍政権による方針を受けてのことだ。独立行政法人「日本学生支援機構」が2015年度に行った調査によれば、日本の大学もしくは大学院を卒業した留学生の就職率は35.2パーセントだった。その割合を「5割」まで引き上げようと、安倍政権は16年に「留学生の就職支援」を成長戦略に掲げた。結果、留学生の就職が一段と増えていく。
興味深いのは、安倍政権が「留学生の就職支援」を打ち出したタイミングである。留学生は同政権が誕生した12年末以降、右肩上がりに増えていた。出稼ぎ目的で、多額の借金を背負い来日するアジア新興国出身の“偽装留学生”が急増したからだ。
そうした偽装留学生たちは日本語学校での2年間、さらに専門学校などを経て、やがて就職時期に差し掛かる。そのタイミングに合わせるように、安倍政権は「就職支援」を打ち出した。就職を通じ、彼らを日本へ引き留めようとしたのである。
この政策を同政権は、「優秀な外国人材の確保」が目的だとして進めた。留学生は「優秀」との前提に立ってのことだ。しかし、近年急増した留学生には、語学力や学力の面でとても「優秀」とは呼べない偽装留学生が大量に含まれる。
そもそも、留学生の就職を増やすといっても、技人国ビザの対象となるホワイトカラーの仕事では、人手不足は起きていない。一方、偽装留学生たちは大学や専門学校を卒業しても、専門職で使える日本語能力や専門知識を身につけていない。だが、政権が政策の数値目標を打ち出せば、現場の官僚たちは成果を出す必要に迫られる。そのため技人国ビザが大盤振る舞いされていく。
偽装留学生たちには、就職活動できる語学力すらない者が多い。そんな彼らを狙い、「就職サポート業者」が暗躍し始めた。就職先を斡旋し、技人国ビザまで取得する代わりに、留学生から数十万円の手数料を巻き上げるのだ。
求職者から手数料を取るのは、相手が外国人であれ日本人であれ違法である。だが、業者は日本の事情に疎い留学生につけ込む。日本への留学時、多額の手数料を留学斡旋業者に支払い来日した偽装留学生たちは、今度は就職で、日本の業者の餌食となる。
“偽装就職”が横行
業者が用いる典型的なやり方を紹介しておこう。まず、人材派遣会社などに「通訳」として就職すると申請し、ビザを取得する。そして就職希望者のビザが取れると、派遣会社の取引先である弁当工場などで、留学生アルバイトと一緒にラインに立って働かせる。こうして技人国ビザで認められた仕事をせず、実際には単純労働に就く“偽装就職”が横行している。安倍政権の掲げた「留学生の就職支援」が影響してのことだ。
偽装留学生たちは日本で就職できても、キャリアアップは見込めない。底辺労働に固定され、低賃金の仕事をやり続けることになる。企業にとっては人手不足が解消され、しかも低賃金の労働力が確保できるとあってメリットは大きい。だが、それはあくまで「人手不足」を前提にした話である。
新型コロナウイルスの感染拡大によって、労働市場に変化が起き始めている。完全失業者数は今年7月時点で前年同月比41万人増の197万人に達し、6カ月連続で増加が続く。一方、昨年12月には1.68倍を記録した有効求人倍率は、1.08倍まで低下した。