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2020年3月28日

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出井康博 (いでい・やすひろ)

ジャーナリスト

1965年、岡山県に生まれる。ジャーナリスト。早稲田大学政治経済学部卒業。英字紙「ニッケイ・ウイークリー」記者、米国黒人問題専門のシンクタンク「政治経済研究ジョイント・センター」(ワシントンDC)客員研究員を経て、フリー。著書には、『移民クライシス 偽装留学生、奴隷労働の最前線』(角川新書)、『ルポ ニッポン絶望工場』(講談社+α新書)、『長寿大国の虚構 外国人介護士の現場を追う』(新潮社)、『黒人に最も愛され、FBIに最も恐れられた日本人』(講談社+α文庫)などがある。

閑散とした成田空港(UPI/AFLO)

駆け込み入国した大手新聞社の「新聞奨学生」

 新型コロナウィルス感染症の影響で閑散とした成田空港に3月中旬、100人以上のベトナム人の若者たちが到着した。大手新聞社の「新聞奨学生」として採用されたベトナム人留学生たちだ。彼らは今後2年間にわたって日本語学校に在籍しながら、新聞販売所で配達の仕事に就く。

 ベトナムは日本にとって最大の労働者送り送り出し国だが、すでにこの頃、新型コロナ感染拡大によって、両国間の往来は減り始めていた。その後、日本政府は3月26日、ベトナムを入国制限の対象国に加える。結果、留学生らの入国が4月末まで実質不可能となった。その前に、ベトナム人奨学生たちは駆け込むように入国したわけだ。

ベトナム人を受け入れる新聞販売所関係者が言う。

「無事にベトナム人たちが日本に来れてよかった。同じ奨学生でも、ネパールやモンゴルの留学生は来日できていない。新聞配達に支障が出る販売所もあるしれません」

 留学生のアルバイトといえば、コンビニや飲食チェーンの店頭で働く姿をイメージしがちだ。しかし、新聞配達の現場でも留学生頼りが著しい。

 一般社団法人「日本新聞協会」によれば、2019年10月時点で全国の新聞販売所従業員数は27万1878人と、前年から5パーセント以上減った。2001年と比較すると20万人近い激減だ。新聞購読者の減少した結果である。

 一方で、外国人従業員に限っては前年比6.4パーセント増加し、2761人を数える。その多くは、奨学生を含めた留学生のアルバイトだ。

 新聞販売所の全従業員に外国人が占める約1パーセントという割合は、いっけん多くない。日本で働く外国人は約166万人に達し、日本人を含めた労働者の2.5パーセントに上っている。ただし、都市部の新聞販売所では、外国人配達員の割合はずっと高い。

 筆者は6年前から新聞配達現場の外国人を取材していて、過去に二度、ベトナム人の朝刊配達にも同行した。どちらの取材も東京近郊の販売所で行なったが、1つの店は10人の配達員のうち8人、もう1つの店は7人のうち5人がベトナム人留学生だった。都内には配達員の全員がベトナム人という販売所もある。

 都会の新聞配達といえば、かつては地方出身の苦学生が担うケースが多かった。新聞奨学生となれば、大学などの学費は奨学金でまかなわれる。とはいえ、仕事は決して楽ではない。午前2時前後からの朝刊配達に加え、午後には夕刊の仕事もある。人手不足でアルバイトなど選び放題の今、わざわざ新聞配達をしようという若者は珍しい。だから販売所は外国人に頼らざるを得ない。

 もちろん、外国人が新聞配達をやろうと全く構わない。奨学生の場合は、日本語学校の学費も負担してもらえる。アジア新興国出身の多くの留学生たちのように、多額の借金を背負い来日する事態も避けられる。ただし、新聞配達現場の留学生は、別の問題を抱えている。

 留学生のアルバイトには「週28時間以内」という法定上限がある。しかし新聞販売所の仕事は、普通にやっていれば「週28時間以内」では終わらない。朝夕刊の配達に加え、広告の折り込み作業などもあるからだ。私が同行取材した2つの販売所でも、留学生たちはゆうに週28時間を超えて働いていた。つまり、違法就労を強いられているのだ。

 しかも彼らは、残業代が払われない。残業代を支払えば、販売所が違法就労を認めたことになるからだ。そうした問題について、筆者はネット媒体を中心に繰り返し訴えてきたが、今も状況は改善されていない。大手メディアの知らんぷりも影響してのことだ。

 外国人労働者問題に関し、新聞は実習生が被る人権侵害などを頻繁に報じる。だが、留学生の多くが借金漬けで来日し、「週28時間以内」を超える違法就労を強いられ、さらには日本語学校などに都合よく利用されている実態はほとんど取り上げない、その背景にも、新聞配達現場の違法就労問題がある。留学生問題を報じれば、自らの配達現場に火の粉が及ぶと恐れているのだ。そうしたメディアの態度こそ、外国人に対する日本のご都合主義の象徴と言える。

「外国人労働者なしでは日本は成り立たない」

 新聞などで最近、よく見かける言葉である。低賃金の労働者を欲する経済界に限った声ではない。「多文化共生」を唱える“人権派”も同様に主張する。

 しかし筆者には、まずなされるべき議論が抜け落ちていると思えてならない。それは「人手不足」の正体を分析することだ。

 外国人労働者の増加は、その4割以上を占める留学生と実習生の急増によって起きている。そして彼らが仕事に就くのは、決まって日本人の働き手が足りない職種だ。

 留学生の場合、来日当初はたいてい夜勤の肉体労働に就く。日本語が不自由でもこなせるからである。コンビニの店頭で見かけるような留学生は「エリート」であって、多くはコンビニやスーパーで売られる弁当や惣菜の製造工場、宅配便の仕分け現場、ホテルの掃除など、日本人が普通に生活していれば気づかない場所で働くことになる。

 徹夜で弁当におかずを延々と詰め続ける作業など、いくら貧しい国の出身者であろうと喜んでやりたいはずがない。それでも母国で背負った借金を返し、日本語学校に学費を払うためには、過酷なアルバイトをかけ持ちし、法律に違反して働くしか選択肢がないのだ。

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