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2020年3月20日

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出井康博 (いでい・やすひろ)

ジャーナリスト

1965年、岡山県に生まれる。ジャーナリスト。早稲田大学政治経済学部卒業。英字紙「ニッケイ・ウイークリー」記者、米国黒人問題専門のシンクタンク「政治経済研究ジョイント・センター」(ワシントンDC)客員研究員を経て、フリー。著書には、『移民クライシス 偽装留学生、奴隷労働の最前線』(角川新書)、『ルポ ニッポン絶望工場』(講談社+α新書)、『長寿大国の虚構 外国人介護士の現場を追う』(新潮社)、『黒人に最も愛され、FBIに最も恐れられた日本人』(講談社+α文庫)などがある。

 外国人労働者の数は2019年10月末時点で約166万人を数え、過去5年間で2倍以上に増えている。同年末で約37万人に上る実習生、34万人近い留学生の急増が影響してのことだ。留学生は本来「労働者」ではないが、勉強よりも出稼ぎを目的に留学ビザで来日する外国人も多い。

 政府は昨年、外国人労働者の新在留資格「特定技能」を創設し、5年間で最大34万5000人の受け入れを見込んでいる。今後も日本で働く外国人は確実に増えていく。

 筆者は2007年から、外国人労働者の就労現場を回って取材を続けている。実習生や留学生、日系ブラジル人、一部アジア諸国との経済連携協定(EPA)によって来日した介護士や看護師など、様々な外国人と出会ってきた。それぞれの受け入れ制度、また雇用環境の問題もあって、日本での生活に満足している人は多くない。そんな中、愛媛で農業法人に就職したブータン人たちの幸せな表情が印象に残った。

 地方における人手不足は、都市部にも増して深刻だ。外国人労働者を受け入れようと、知事など自治体の首長が自ら送り出し国へ誘致に出向く動きも目立つ。

 ただし、地方にはハンディもある。都市部よりも賃金が安く、生活も便利とは言えない。ブータン人の受け入れを通じた愛媛の成功から、私たちが学べることは何なのか。

愛媛で就職した元留学生たちと菅由美子さん

①「借金漬け」で来日しない仕組みづくり

 ブータン人留学生たちは来日時、日本語学校に支払う初年度の学費などを借金に頼った。借金を抱えての来日は、アジア新興国出身の留学生、また実習生の多くにも共通する。実習生には学費は必要ないが、現地の斡旋業者が多額の手数料を徴収するからだ。

 実習生の手数料には、彼らを日本で仲介する監理団体に対し、斡旋業者が支払うキックバックや、受け入れ企業関係者が現地を訪れた際の接待費用も含まれる。ベトナムなどでは日本への出稼ぎ希望者が多く、日本側の「買い手市場」となっている。そのため不明瞭なキックバックや接待が横行する。

 実習生や留学生が日本で得られる賃金は高くない。それでも彼らは短期間で借金を返済し、留学生であれば学費まで貯めなければならない。結果、職場や学校から失踪し、不法就労に走る者が後を絶たない。

 そんな現状を変えようと、愛媛のブータン人たちは労働組合を結成し、実習生などの送り出しに関わろうとしている。人材が借金を背負わず来日できる仕組みができるかどうか注目に値する。

②日本語教育は海外で推進する

 ブータン人たちの就職では、日本語学校で学んだ語学力が活かされた。ただし、日本国内の日本語学校に留学すれば、年70万〜80万円程度の学費が必要だ。新興国の若者にとっては重い負担で、借金に頼ることになってしまう。

 その借金が影響し、ブータン人留学生たちは希望していた大学院進学も適わなかった。彼らが日本語学校を経ず、ブータンから日本の大学院に直接留学できていれば、様々な悲劇も起こらなかったはずだ。

 そのためには、来日前にしっかり日本語能力を身につける必要が生じる。母国で日本語を学べる環境が充実すれば、日本への留学を希望する外国人にとっては費用負担がずっと軽くなる。多額の借金を背負い来日し、アルバイトに明け暮れる事態も避けられる。

 日本語学校には、どんどん海外へ進出してもらいたい。そして政府も「留学生30万人計画」で無理やり留学生を増やしてきた政策を転換し、国外で日本語教育を推進してもらいたい。

③将来設計を描ける受け入れ

 愛媛のブータン人たちは今後、母国からの実習生受け入れに関わろうとしている。

 実習制度の趣旨は、新興国への「技能移転」と「国際貢献」だ。ただし、実習生の受け入れが認められる約80の職種は、「人手不足」という日本側の都合で決められている。「実習」しても専門的な技能は身につかず、母国に帰国後に活かせる仕事も少ない。つまり、「金」以外にはインセンティブないのである。しかも賃金が低いため、職場からの失踪や不法就労が横行する。

 その点、ブータン人たちが愛媛で就いた農業には、将来の可能性がある。事実、ブータンに戻って農業での起業を目指す若者も何人もいる。日本に残って働き続ける場合も、地域の担い手として期待される。実習生とは違い、正社員として採用された彼らには、日本で定住、永住する道も開かれているからだ。様々な可能性があり、自らの人生設計や将来の夢も描ける。

 たとえ実習生であっても、それぞれに目的や希望はあるはずだ。採用する際には、まず彼らの声に耳を傾けてもらいたい。受け入れ側の企業が単に低賃金の労働力として扱っていれば、お互いにとって良い関係は築かれない。

④中間搾取を抑え、自治体ぐるみで「ウィン・ウィン」の関係をつくる

 日本では今、低賃金・重労働の担い手が足りない。愛媛で就職したような「質」の高い元留学生だけでは、労働者の「数」は確保できないだろう。「数」のためには、実習生や特定技能外国人に頼らざるを得ない。その場合も、人材が借金を背負わず来日できる仕組みは必要だ。

 実習生の手取り賃金は、月10万〜15万円ほどに過ぎない。最低賃金レベルで雇われ、住居費などが引かれるからだ。

 ただし、受け入れ企業の金銭的な負担は、日本人を雇用する際と大差ない。実習生を採用すれば、仲介先の監理団体に対し、1人当たり数十万円の支払いが生じる。加えて毎月3万〜5万円程度を「監理費」も徴収される。

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