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2020年10月2日

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出井康博 (いでい・やすひろ)

ジャーナリスト

1965年、岡山県に生まれる。ジャーナリスト。早稲田大学政治経済学部卒業。英字紙「ニッケイ・ウイークリー」記者、米国黒人問題専門のシンクタンク「政治経済研究ジョイント・センター」(ワシントンDC)客員研究員を経て、フリー。著書には、『移民クライシス 偽装留学生、奴隷労働の最前線』(角川新書)、『ルポ ニッポン絶望工場』(講談社+α新書)、『長寿大国の虚構 外国人介護士の現場を追う』(新潮社)、『黒人に最も愛され、FBIに最も恐れられた日本人』(講談社+α文庫)などがある。

 憲政史上最長の7年8カ月に及んだ第2次安倍晋三政権が9月16日、内閣総辞職によって幕を閉じた。東日本大震災の翌2012年に誕生し、「アベノミクス」で経済復興を目指した政権は、日本をどう変えたのか。

 安倍政権の下で急速に進んだのが、外国人労働者の受け入れだった。12年以降、日本で働く外国人の数は約100万人増加し、19年10月時点で約166万人まで膨らんでいる。肉体労働で顕著となった未曾有の人手不足を補うため、外国人労働者の受け入れが拡大されたからだ。

 増えた外国人は「労働者」だけではない。日本での「永住」の在留資格を持つ外国人も、12年末時点の約62万人から昨年末までに約79万人へと増加した。

 永住資格を得た「移民」に加え、「移民予備軍」の伸びも著しい。在留資格「技術・人文知識・国際業務」(通称:技人国ビザ)を有する外国人が増え続けているのだ。

 技人国ビザは、ホワイトカラーの仕事に就く外国人を対象に発給される。日本で就職する留学生の9割以上が取得するビザでもある。在留期限は1年から5年まで幅があるが、ひとたび取得すれば、失業しない限り更新は難しくない。つまり、日本で移民となる権利を得るに等しい。そのビザの取得者数は、12年末からの7年間で11万1994人から27万1999人と約2.4倍になった。

イメージ写真(yuriz/gettyimages)

史上類を見ない「開国政権」

 これらのデータからも、安倍政権は史上類を見ない「開国政権」だったと言える。そして「移民国家」への扉を開いたことでも、歴史に名を刻むかもしれない。

 外国人の受け入れは、日本という国のかたちを変えかねない重要なテーマである。しかし、安倍政権で起きた変化ついて、十分に理解している国民は多くない。本稿では、同政権が取った外国人労働者の受け入れ政策の実態について書いていく。その功罪を検証するとともに、安倍政権を引き継いだ菅義偉政権が取るべき政策についても考えていきたいと思う。

 外国人労働者を在留資格別に見ると、とりわけ「実習生」と「留学生」の急増ぶりが際立つ。実習生は12年末の15万1477人から19年末には41万972人、留学生も18万919人から34万5791人へと増えた。

 厚生労働省がまとめた2019年10月末時点の「外国人雇用状況」では、約32万人の留学生が「労働者」に含まれている。実習生と合わせると、外国人労働者全体の4割以上にも上るほどだ。

 留学生には「週28時間以内」でアルバイトが認められ、人手不足解消の貴重な戦力となっている。だが、留学生は本来、「労働者」とは呼べないはずだ。

 実習生の急増も人手不足の影響である。しかし、実習生受け入れの趣旨は、途上国への「技能移転」や「人材育成」だ。そもそも政府は、実習生を「人手不足解消の手段」とは認めていない。

 そんな留学生や実習生が急増し、さすがに政府も対応を迫られた。そこで安倍政権は、外国人労働者受け入れのため新たな在留資格を創設することになった。そして18年12月の国会で入管法を改正し、「特定技能」という資格がつくられた。

 この資格のもと、政府が「人手不足」を認めた介護や建設、農業など14業種で外国人労働者の受け入れが可能となった。いずれも実習生や留学生の労働力で、人手不足を凌いでいる業種である。

 業種ごとの受け入れ数に加え、当初の5年間で最大34万5000人という受け入れ数も決まった。日本人の労働市場に影響が及ばないよう配慮してのことだ。また、外国人の賃金は「日本人と同等以上」という条件に加え、「悪質ブローカーの排除」が趣旨に掲げられた。

 実習生の受け入れでは、送り出し国側における「悪質ブローカー」の存在が指摘されてきた。ブローカーが多額の手数料を徴収するため、実習生は多額の借金を背負い来日することになってしまう。

 実習生たちは日本で働いて借金を返済しようとするが、得られる賃金は手取りで月10万円少々に過ぎない。最低賃金レベルで雇用され、アパート代などが給与から引かれるからだ。そのため高い賃金を求め、職場から失踪して不法就労に走る者が後を絶たない。そんな問題を解決するため、特定技能では「悪質ブローカーの排除」や、「日本人と同等以上」の賃金の支払いが求められることになった。

 特定技能で定められた趣旨は素晴らしい。また、人手不足を公に認め、現実に即した制度をつくろうとしたのも安倍政権の功績と言える。

進まない特定技能の受け入れ

 だが、特定技能による外国人労働者の受け入れは、現在まで空振りに終わっている。制度開始から丸1年が経った今年3月末時点で、資格を得た外国人は3987人に過ぎない。初年度で見込んでいた4万5000人の受け入れの10分の1以下である。

 せっかく新在留資格をつくったというのに、なぜ受け入れは進まないのか。

 外国人が特定技能の資格を取得するには、日本語試験に加え、業種ごとに決められた技能試験に合格する必要がある。試験は日本国内と海外の両方で実施され、語学力では、日本語能力試験「N4」相当が求められる。

 N4は同試験の下から2ランク目で、初歩的な日本語レベルである。とはいえ、日本に全く馴染みのない外国人にとっては低いハードルではない。もちろん、賃金次第では外国人が日本語を勉強し、特定技能を取得するインセンティブにもなるだろう。だが、実習生と比べ、賃金が大きく上がる保証はない。実習生の賃金も「日本人と同等以上」と定められながら、実際には「最低賃金」が適用されているからだ。

 一方、日本で3年間働いた実習生に限っては、日本語と技能試験免除で特定技能の資格が取得できる。これまで資格を取得した3987人も、9割以上が実習生からの移行組だった。

 つまり、特定技能は、実習生が日本での就労を延長するための手段になっている。これでは政府が新規の外国人受け入れより、実習生を日本に引き留めるため、特定技能をつくったとも見られても仕方ない。

 実習生が特定技能に移行すれば、さらに5年の就労が認められる。また、日本での永住の道も開かれる可能性がある。優秀な人材が日本へ留まるのは、雇用する企業にとっては望ましい。しかし、実習生は日本で技能を習得し、母国へ戻って活躍してもらうべき存在だ。それを日本へ引き留めれば、実習制度の趣旨に反してしまう。

 いっそのこと実習制度を廃止し、外国人労働者の受け入れを一本化すればスッキリした。そもそも同制度には「悪質ブローカー」や「低賃金」以外にも、多くの問題が指摘されている。

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