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2020年3月27日

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出井康博 (いでい・やすひろ)

ジャーナリスト

1965年、岡山県に生まれる。ジャーナリスト。早稲田大学政治経済学部卒業。英字紙「ニッケイ・ウイークリー」記者、米国黒人問題専門のシンクタンク「政治経済研究ジョイント・センター」(ワシントンDC)客員研究員を経て、フリー。著書には、『移民クライシス 偽装留学生、奴隷労働の最前線』(角川新書)、『ルポ ニッポン絶望工場』(講談社+α新書)、『長寿大国の虚構 外国人介護士の現場を追う』(新潮社)、『黒人に最も愛され、FBIに最も恐れられた日本人』(講談社+α文庫)などがある。

ハノイ名物のトラフィックジャム( Artit_Wongpradu/gettyimages)

 新型コロナウィルスの感染拡大が、外国人留学生の受け入れ現場を直撃している。4月の新学期を前に、来日の延期や中止を迫られる外国人が続出しているからだ。現場では今、何が起きているのか。

 ベトナムの首都ハノイに住むフーンさん(27歳)は今年4月、東京都内の日本語学校へ留学する予定だった。彼女は大学で英語を教えているが、月収は日本円で3万円ほどに過ぎない。急激な物価上昇が続くハノイでは、生活にも困るほどの低賃金だ。そこでフーンさんは日本へ留学し、人材をリセットしようと考えた。しかし、コロナ禍が起き、来日すべきかどうか悩んでいる。

「日本とベトナム間の航空路線はまだ運行しているので、日本へ行けないわけではありません。でも、日本で私がコロナウィルスに感染することを両親が心配しているのです。ベトナムでは、日本は“危ない国”の1つと見られていますから」

 ベトナムのおけるコロナウィルス感染者数は、3月23日時点で134人に留まっている。だが、海外からの帰国者に感染が目立っているため、ベトナム政府は対策に余念がない。3月14日には、欧州27カ国からの入国を禁止する措置を打ち出した。そして18日になると、日本からの入国に関しても、ウィルス陰性の証明書がない限り、制限することが決まった。日本人かベトナム人かを問わない措置で、実質的な入国禁止と言える。まさに日本が“危ない国”と認定されたわけだ。その後、ベトナムは22日、すべての外国人の入国も停止した。

 フーンさんは日本語学校に初年度分の学費を支払い、留学ビザも取得できた。だが、彼女の心は揺れている。

「日本に行きたいけど、私も感染は怖い。両親の反対を押し切ってまで行くべきかどうか……」

 留学生の数は2019年6月時点で約33万7000人を数え、12年末から16万人近く増加した。近年、アジア新興国で日本への「留学ブーム」が巻き起きた結果である。とりわけベトナム出身者の増加は著しく、12年時点では9000人に満たなかった留学生が、今では8万人を超えている。

 フーンさんの目的は日本での「遊学」だ。100万円をゆうに越える留学費用は、国営企業の幹部を務める父親がポンと出してくれた。彼女のような富裕層の日本留学は、ベトナム人の間では珍しい。たいていは貧しい若者たちが、留学費用を借金に頼り、出稼ぎ目的で来日する。日本では、留学生に「週28時間以内」のアルバイトが認められるからだ。留学生が急増したのも、勉強よりも出稼ぎが目的の“偽装留学生”が大量に流入した結果である。

 その恩恵を最も受けたのが、留学生の日本での入り口となる日本語学校業界だった。日本語学校数は昨年末で774校と、10年間で2倍以上に増えている。そんな日本語学校で、新型コロナの影響が著しい。

 フーンさんの状況を見ても、来日を控えるベトナム人は少なくないだろう。ベトナム以外の留学生に至っては、さらに減少が見込まれる。

 現在、日本へ最も多く留学生を送り出しているのが、約13万人が来日中の中国だ。その中国に対し、日本政府は3月9日、発給済みのビザを無効とすると決めた。結果、今春に留学を予定していた中国人は、来日を延期せざるを得なくなった。

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