新型コロナウイルス感染拡大の影響で、アルバイトを失った留学生は少なからず存在する。そんな留学生を憐れむ報道が目立つ。たとえば、4月30日『朝日新聞』電子版に載った<「ポテチも買えない…」コロナ禍、外国人留学生の困窮>というタイトルの記事がそうだ。
この記事では、コンビニのアルバイトがなくなり、困っているバングラデシュ人留学生が取り上げられる。母国で「養殖業」を営む母親もコロナ禍の影響を受け、日本にいる息子に仕送りができなくなった。結果、この留学生の貯金は「7000円」まで減り、好きな「ポテチ」もがまんしているのだという。
記事を読んだ人たちは、留学生に憐憫の情を覚えたに違いない。だが、留学生の受け入れ現場を長く取材している筆者は怒りすら覚えた。記事は、日本の留学生受け入れ制度が抱える構造的な問題には何ら言及していない。他紙の記事と同様、
留学生の数は安倍政権が誕生した2012年末から約16.5万人増え、2019年末時点で34万5791人を数えている。同政権が「留学生30万人計画」を成長戦略の掲げ、留学生を受け入れてきた結果だ。
こうして急増した留学生には、アジア新興国から出稼ぎ目的で、ビザ取得に必要な書類を捏造して来日する“偽装留学生”が数多く含まれる。彼らは100万円以上に上る留学費用を借金に頼っている。そんな“偽装留学生”の流入によって、最も恩恵を受けてきたのが日本語学校だ。
日本語学校は全国で800校近くに増え、大学の数を上回るまでになっている。アジア新興国の留学生頼みの学校は、“偽装留学生”の受け入れ先と見て間違いない。
留学生は日本語学校には最長2年までしか在籍できない。2年間では留学費用の借金も返済できず、出稼ぎの目的も果たせない。そこで留学生たちは専門学校や大学へ進学する。
日本人の学生が集まらず、留学生の受け入れで生き残りを図る学校は増えている。日本語能力を問わず、学費さえ払えば入学できてしまうのだ。
文部科学省によれば、昨年4月時点で留学生が学生全体の9割以上を占める専門学校は全国に101校、全員が留学生という学校も45校に上っている。こうした学校も、経営維持の目的で“偽装留学生”に頼っている疑いが強い。
『朝日新聞』が記事で取り上げたバングラデシュ人が、“偽装留学生”だと言うつもりはない。彼らがコロナ禍の被害者であることも事実である。ただし、母国の家族から仕送りのある留学生など、新興国出身者にはごく少数しかいない。何より『朝日』が留学生の苦境を報じたいなら、他に取材すべき対象がある。
現在、首都圏など都会の新聞配達は、留学生のアルバイト頼みが最も著しい職種の1つとなっている。重労働が嫌がられ、日本人の配達員が集まらないからだ。
いち早く留学生の労働力に目をつけたのが『朝日』だった。1990年代から朝日新聞社系列の「朝日奨学会」を通じ、ベトナムで「新聞奨学生」の採用を始めた。その後、販売所で人手不足が深刻化し、近年ではベトナム人だけで毎年数百人を受け入れるまでになっている。彼らは日本語学校に留学生として通いながら、新聞販売所で働く。
『朝日』の新聞奨学生制度はネパールなど他国にも広がった。そして他の大手新聞社も同様の制度を始めた。また、奨学生以外にも新聞販売所にアルバイトで雇用される留学生もいる。
もちろん、留学生が新聞配達をすること自体に問題はない。だが、新聞販売所の仕事は、よほど店側が気をつけない限り、留学生のアルバイトとして許される「週28時間以内」では終わらない。朝夕刊の配達に加え、チラシの折り込み作業などもあるからだ。
筆者は過去2度、『朝日』の販売所で働くベトナム人留学生に同行取材した。インタビューした販売所の留学生はゆうに50人以上に上る。その誰もが「週28時間以内」を超えて働いていた。つまり、違法就労を強いられているのである。しかも彼らは残業代も支払われていない。残業代を払えば販売所が違法就労を認めたことになるため、払うことができないのである。
この違法就労と残業代の未払い問題に関し、筆者は週刊誌やネット媒体で繰り返し取り上げてきた。個別の販売所を責めるのが意図ではない。購読部数とチラシ量がともに落ち込み、販売所の経営は軒並み悪化している。配達員の人手不足も著しく、留学生に負担を強いるしかない状況なのだ。
問題の根本は、新聞社自体の姿勢にある。そう考えて、朝日新聞社にも取材した。だが、資本関係のない販売所で起きている問題との回答しか得られなかった。自らは無関係だと言いたいのだ。