今年夏頃から北関東の各県で起きていた「豚」などの盗難に絡み、先月末、ベトナム人たちの逮捕が相次いだ。まず10月26日、群馬県太田市に在住する13人のベトナム人が入管難民法違反(不法残留)で、2日後の28日には、別の4人が無許可で豚を解体したとして畜馬法違反の容疑で逮捕された。2つのグループには、いずれも盗難への関与が疑われている。
群馬県では約720頭の豚の他、約140羽の鶏、約6000個近いナシの盗難があったという。加えて、埼玉で約130頭の豚、約5000個のナシ、栃木でも約3700個の柿などが盗まれている。
容疑者たちは、豚を解体したり、バーベキューにする様子をSNSに載せていた。そうした投稿が影響し、逮捕へつながったようなのだ。
男女13人のベトナム人グループは、2軒の民家で他の同胞らと同居していた。その家からは、警察の家宅捜査によって冷凍された約30羽の鶏も発見された。そんなインパクトもあってか、事件はテレビなどでも繰り返し報じられた。
ベトナム人が関わる犯罪は、過去にも全国ニュースで取り上げられたことがある。数年前には、全国各地の「ユニクロ」を回って盗みを働く「ユニクロ窃盗団」の事件があった。また、岐阜県で除草用に飼われていた「ヤギ」を盗んで食べたベトナム人の事件も大きく報じられた。今回の「豚」と同様、「ユニクロ」や「ヤギ」という珍しさにメディアが飛びついてのことだ。
在日ベトナム人の数は近年急増し、2019年末時点で約41万人に上っている。昨年だけでも8万人以上増え、中国人の約81万人、韓国人の約45万人に次ぐ多さだ。
ベトナム人コミュニティで何が起きているのか。そして本当に、ベトナム人たちは豚を盗んだのだろうか。
まず、外国人と犯罪の関係から見ておこう。在日外国人の検挙件数は2019年には1万7260件を数え、前年から約1000件増加した。ただし、この数はピーク時の2005年の3分の1程度に過ぎない。その間、日本に住む外国人は約100万人増加したが、犯罪は逆に減っている。つまり、外国人の増加と犯罪には因果関係はない。
だが、ベトナム人に関しては検挙数の増加が著しい。ベトナム人は在日外国人全体の14パーセント程度だが、検挙数では35パーセントを占めている。在留者数で約2倍の中国人を抜いてトップである。外国人が関与する窃盗の半数近く、万引きにいたっては3件に2件をベトナム人が犯している。
最近では、窃盗以外の犯罪も目立っている。今年9月に群馬県で起きたホテル経営者の殺害事件では、10月になって元実習生のベトナム人男性(30歳)が強盗殺人容疑で逮捕された。また10月末には、やはり群馬県内のベトナム人グループ10人が、違法薬物の密輸容疑で捕まっている。
犯罪を犯すベトナム人はごく一部である。次々と発覚する事件に関し、日本在住の同胞たちはどう見ているのか。日本在住6年で、現在は東京都内のメーカーで働くフーンさん(20代)はこう話す。
「同じベトナム人として本当に恥ずかしい。日本人の中には『新型コロナの影響で困っているから犯罪を犯している』と言ってくれる人もいます。でも、私はコロナだけの影響だとは思わない。今、問題になっている豚だって、2~3年前からネットでベトナム人たちが売っていたんです。今回事件になって、やっぱり盗まれた豚だったんだとわかりました」
フーンさんによれば、ベトナム人が母国語で利用するSNSのコミュニティでは、10キロ以下の子豚が2~3万円で売られていたのだという。彼女の友人にも、実際に子豚を購入したベトナム人がいる。
「ベトナムには、お祝いのときなどに子豚を丸ごと焼いて食べる習慣があります。『ティット・クアイ』(Thit Quay)と呼ばれる料理です」
日本のスーパーなどでは普通、子豚は丸ごと売られていない。そこで日本にいるベトナム人たちが、子豚を売るビジネスを始めたようなのだ。
ベトナムは世界有数の豚肉生産国だ。やはり豚の盗難はよく起きるのだろうか。フーンさんに尋ねると、こんな答えが返ってきた。
「いいえ、ベトナムで豚が盗まれることは滅多にありません。日本とは違い、ベトナムでは農家が家の一角で、豚を飼っているケースがほとんどです。盗難防止のため、高い塀もつくっている。ベトナムの農民は皆貧しいので、自分たちで食べるために豚や鶏などを飼っているのです。田舎生まれのベトナム人なら、豚だって普通にさばけます。
豚よりも盗まれやすいのは、番犬として飼われている犬ですね。毒の入った餌を食べさせ、ぐったりしたところを盗んでいく。ベトナムでは犬を食べる人が多くいます。私の実家でも、飼っていた犬が10頭近く被害に遭っている」