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2020年11月8日

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出井康博 (いでい・やすひろ)

ジャーナリスト

1965年、岡山県に生まれる。ジャーナリスト。早稲田大学政治経済学部卒業。英字紙「ニッケイ・ウイークリー」記者、米国黒人問題専門のシンクタンク「政治経済研究ジョイント・センター」(ワシントンDC)客員研究員を経て、フリー。著書には、『移民クライシス 偽装留学生、奴隷労働の最前線』(角川新書)、『ルポ ニッポン絶望工場』(講談社+α新書)、『長寿大国の虚構 外国人介護士の現場を追う』(新潮社)、『黒人に最も愛され、FBIに最も恐れられた日本人』(講談社+α文庫)などがある。

 群馬県など北関東で相次ぐ家畜や果物の盗難被害——。その犯人として、ベトナム人たちの関与が疑われている。

 10月末に入管難民法違反容疑(不法残留)で逮捕された男女13人のベトナム人グループの中には、豚を丸焼きにする動画をSNSにアップしていた者がいた。彼らが住んでいた家からは、警察の家宅捜査で冷凍された30羽余りの鶏も見つかった。さらには、無許可で豚を解体し、逮捕された別のベトナム人グループもいる。

 一連の盗難事件が、ベトナム人の犯行なのかどうかは断定できない。しかし、外国人犯罪全体に占めるベトナム出身者の多さは際立つ。在日外国人の14パーセント程度に過ぎないベトナム人が、検挙数では外国人全体の35パーセントにも上っている。

 こうして検挙されるベトナム人の8割近くは、「実習生」もしくは「留学生」として来日している。今回逮捕されたベトナム人も、大半が現役の実習生や元実習生の不法残留者、そして留学生だった。

 実習生や留学生に対しては、「コロナ禍の影響で仕事を失い、生活に困っている」といった同情的な声もある。確かに、新型コロナで苦しい生活を強いられている者は少なくない。とはいえ、困っている外国人は何もベトナム人だけではない。

イメージ写真(Drimafilm/gettyimages)

多額の借金を背負い入国

 なぜ、ベトナム人は犯罪に走るのか。その要因として、新型コロナにも増して「制度」の問題があると筆者は考える。

 ベトナム人の実習生や留学生は、大半が多額の借金を背負い入国している。借金を背負わずには来日できない仕組みが存在するのだ。

 実習生の借金は、ベトナムから日本へと彼らを派遣する「送り出し機関」へ支払う手数料によって発生する。手数料に関し、ベトナム政府は送り出し機関が徴収する上限を「3600ドル」(約38万円)と定めている。だが、全く守られておらず、中には100万円以上もの手数料を要求する機関もある。

 ベトナム人の実習希望者には、現地で仕事にあぶれた、貧しい層の若者が多い。そのため手数料は借金をして支払う。日本で働き、返済しようと考えるのだ。

 そうした手数料は、すべてが送り出し機関の収入になるわけではない。日本側で実習生を仲介する「監理団体」関係者へのキックバッグも横行している。実習生のリクルートで現地を訪れた関係者が、送り出し機関の接待を受けることもよくある。そんな接待費にしろ、出処は実習生の借金なのである。

 実習生が来日した後には、監理団体の中間搾取が待っている。受け入れ先となる企業や農家などは、「監理費」として月3万〜5万円程度を監理団体へと支払わなくてはならないのだ。監理費の負担は、実習生が受け取る賃金へと跳ね返る。結果、賃金は手取りで10万円程度に抑えられてしまう。

 実習生の賃金は「日本人と同等以上」と定められている。だが、都道府県ごとの「最低賃金」さえ支払っていれば、問題にはならない。

 残業の多い職場へ派遣された実習生には、月15万円以上を得るような者もいる。しかしコロナ禍によって、残業が減った職場も少なくない。つまり、もともと借金を背負い入国し、低賃金で働いているところに、新型コロナが追い打ちをかけているわけだ。

 そんな状況も、実習生が職場から失踪し、不法就労する動機となっている。ただし、コロナ禍の影響で人手不足が緩和され、以前ほど簡単に就労先は見つからない。結果、犯罪に手を出してしまう者が現れる。

 留学生に至ってはさらに悲惨だ。ベトナム人にとって日本への留学は、実習と同様に出稼ぎの手段になっている。留学生に「週28時間以内」のアルバイトが認められることに着目し、留学を出稼ぎに利用するのである。

 ベトナムでは、実習生には「底辺労働者」とのイメージが強い。その点、同じ出稼ぎであっても「留学」は耳障りがよい。うまくいけば、日本で就職できるかもしれない。そう考え、実習よりも留学を選ぶベトナム人が少なくない。

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