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2021年4月16日

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出井康博 (いでい・やすひろ)

ジャーナリスト

1965年、岡山県に生まれる。ジャーナリスト。早稲田大学政治経済学部卒業。英字紙「ニッケイ・ウイークリー」記者、米国黒人問題専門のシンクタンク「政治経済研究ジョイント・センター」(ワシントンDC)客員研究員を経て、フリー。著書には、『移民クライシス 偽装留学生、奴隷労働の最前線』(角川新書)、『ルポ ニッポン絶望工場』(講談社+α新書)、『長寿大国の虚構 外国人介護士の現場を追う』(新潮社)、『黒人に最も愛され、FBIに最も恐れられた日本人』(講談社+α文庫)などがある。

 新型コロナウイルスの感染が拡大し、新規に来日する留学生が激減した。留学生数は昨年1年間で2割近く減り、2020年末時点で28万901人まで落ち込んでいる。その結果、大きな打撃を受けているのが日本語学校である。

 コロナ禍前の数年間、日本語学校業界はバブルに湧いていた。政府が進める「留学生30万人計画」のおかげで、留学生が急増したからだ。30万人計画が始まる前年の2007年には308校だった日本語学校の数は19年末までに774校へと膨らんだ。毎年のように定員を増やし、規模拡大を続けていた学校も少なくない。そうした日本語学校が、コロナ禍で苦境に直面している。

 専門学校や大学にも、危機感を強めている学校が多い。とりわけ、日本人の学生が集まらず、日本語学校を卒業した留学生の受け入れで、経営難を凌いできた学校はそうだ。

イメージ画像(Marcos Calvo/gettyimages)

 外国人が海外から直接、日本の専門学校や大学へ進学しようとすると、留学ビザ取得に一定の日本語レベルが求められる。ただし、日本語学校の卒業生の場合、進学先となる専門学校などが認めれば、語学力を問われず入学できる。そこに着目し、日本語能力の乏しい卒業生までも、学費稼ぎのため受け入れる専門学校や大学が増えている。

 留学生が日本語学校に在籍できるのは最長2年だ。コロナ禍によって新入生が急減し、来年以降は卒業生も大幅に減ることが見込まれる。留学生頼みの専門学校などが危機感を抱くのも当然だ。

 一方、日本語学校としても、2年で留学生を手放したくはない。自ら専門学校を設立し、内部進学させようとする動きも目立つ。逆に、専門学校や大学が日本語学校の運営に参入するケースもある。まさに留学生をめぐって争奪戦が繰り広げられているわけだ。そんな中、進路妨害などの人権侵害を受ける留学生が少なからず存在することは、世に全く知られてない。

 4月初め、見知らぬ日本語教師の女性から筆者にメールが届いた。女性が最近まで勤めていた関西地方の日本語学校で、留学生が系列の専門学校への内部進学を強要されているというのだ。

 日本語学校の留学生が専門学校や大学を受験する際には、「成績証明書」や「出席証明書」、「卒業(見込み)証明書」などが必要となる。そうした証明書の発行を学校側は拒み、留学生たちが希望する進路を妨害していた。系列校に内部進学させ、引き続き学費を徴収するためである。

 こんなことは、日本人の学生相手には絶対に起こらない。たとえば、ある高校が学生に対して突然、「系列の大学にしか進学は認めない」という方針を打ち出せば、保護者やマスコミを巻き込んで大騒ぎになるだろう。しかし留学生に対しては平然と起き、問題が表面化することもない。

 本来は、被害を受けた留学生たちが声を上げるべきところだ。しかし、彼らは被害を訴えるに十分な日本語能力を身につけておらず、助けを求める当てない。また、在籍先の日本語学校を恐れてもいる。学校が「ビザ」を通じ、留学生への絶対的な支配権を握っているからだ。

 留学生は学校に嫌われれば、ビザ更新の手続きを取ってもらえない。転校の自由もないので、日本に留まれなくなってしまうのだ。事実、学校が素行不良とみなしたり、学費の支払いが滞った留学生を母国へ送り返すケースもよくある。だから被害を受けても耐えようとする。

 さらには、留学生たち自身の“事情”もある。近年急増した留学生には、出稼ぎ目的で、多額の借金を背負い来日しているアジア新興国出身者が数多く含まれる。彼らは留学生に許される「週28時間以内」の就労制限を超え、アルバイトに励んでいる。その後ろめたさも、外部に助けを求めようしない要因となる。

 過去に筆者は、留学生に対する人権侵害の具体的な事例をいくつも取材してきた。学費の支払いが滞った留学生から、パスポートや在留カードを取り上げていた学校もあった。寮の狭い部屋に数人の留学生を詰め込み、相場よりはるかに高い寮費をボッタクっている学校も何度となく目の当たりにした。系列校への内部進学強要にしろ、これまで何件もの情報が届いている。そのひとつで、私が1年以上前から取材している、北関東のある日本語学校で起きた事例について述べてみよう。

 この学校も留学生に証明書の発行を拒み、外部への進学や就職を阻止していた。そのやり方はこうだ。留学生の卒業が近づいた頃、学校側は突然、日本語の「卒業試験」を課した。日本語学校を卒業しても学位は得られず、留学生は習得した語学力に関係なく、最長2年で「卒業」となる。つまり、学校は必要ない「卒業試験」を敢えて実施していた。そして一定の点数を取れなかった留学生に対し、証明書の発行を拒んだ。しかも、試験後に急きょ、合格点を引き上げるという姑息な手段まで使ってのことだ。

 多くの留学生が、内部進学に応じるか、さもなければ母国へ帰国するしかなくなった。困った留学生たちは、最寄りの入管当局に助けを求めた。

 留学生たちにとって、「入管」は怖い存在だ。とりわけ出稼ぎ目的で、「週28時間以内」を超えてアルバイトに励んでいる留学生たちは、入管当局に違法就労が発覚し、ビザ更新ができないことに怯えて暮らしている。入管に助けを求めるのは、留学生には勇気の要る行動だ。それほどまで、彼らは追い込まれていた。

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