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2021年2月15日

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出井康博 (いでい・やすひろ)

ジャーナリスト

1965年、岡山県に生まれる。ジャーナリスト。早稲田大学政治経済学部卒業。英字紙「ニッケイ・ウイークリー」記者、米国黒人問題専門のシンクタンク「政治経済研究ジョイント・センター」(ワシントンDC)客員研究員を経て、フリー。著書には、『移民クライシス 偽装留学生、奴隷労働の最前線』(角川新書)、『ルポ ニッポン絶望工場』(講談社+α新書)、『長寿大国の虚構 外国人介護士の現場を追う』(新潮社)、『黒人に最も愛され、FBIに最も恐れられた日本人』(講談社+α文庫)などがある。

 政府は1月13日、新型コロナウイルス感染症拡大防止のため、緊急事態宣言の対象を11都府県へ広げることを発表した。同時に、11カ国・地域の外国人「ビジネス関係者」に例外的に認めていた入国制限緩和措置も、同宣言中は一時停止されることになった。

 この措置に対し、強いこだわりを示していたのが菅義偉首相である。1月7日に緊急事態宣言を1都3県に発令した時点では、自民党内の反対論を押し切り、PCR検査の陰性証明を条件に同措置を続けると表明した。だが、その後も感染状況が悪化し、宣言の拡大が決まってやっと「一時停止」に踏み切った。

 なぜ、菅氏が外国人の入国にこだわったのか。そもそも、大手メディアが「ビジネス関係者」と報じる外国人とは、どこの国の、どういった人たちなのか。

(gyro/gettyimages)

 外国人への入国制限緩和は、政府の「新型コロナウイルス感染症対策本部」が定めた「国際的な人の往来再開に向けた段階的措置」のもと実施された。この措置などを通じ、昨年11月以降に入国した外国人の数を、法務省出入国在留管理庁が公開している。そのデータを集計すると、興味深い事実が判明する。

 11月から今年1月21日までの間に入国した外国人は12万8625人だった。国籍で最も多いのが4万9106人のベトナム人、続いて中国人が3万9620人である。新聞などは緩和措置の対象は「中韓など11カ国・地域」だと表現していたが、実際にはベトナムと中国からの入国が7割に上っていたわけだ。

 在留資格別に見ると、技能実習生が5万5754人、留学生が3万8565人で、合わせて全体の7割以上を占めている。「ビジネス関係者」の実態は、実習生や留学生であることがわかる。

 実習生は、日本人の働き手が不足する職種で受け入れられる出稼ぎ労働者だ。留学生にも、勉強よりも出稼ぎを目的に来日する者が数多く含まれる。そして産業界には、低賃金の外国人労働者を求める声が強い。そんな声に応えるかたちで、政府は外国人の入国制限緩和措置を実施し、菅氏も継続にこだわったのだと見られる。

 入管庁のデータでは、今年に入って以降、特定の国から、同じ在留資格を持つ外国人の入国ラッシュが起きていることもわかる。ベトナム人留学生の来日が急増しているのだ。

 11月から12月にかけて入国したベトナム人実習生の数は、週1000〜2000人前後だった。それが1月4日~10日には5682人、11〜17日には5042人と一気に増える。この数は、同じ時期に入国制限緩和措置で来日した全外国人の半数以上に相当する。

 実は、同措置は政府が「一時停止」を発表した1月13日で終わったわけではない。その後も21日まで、すでにビザを取得していた外国人に限って入国が認められ続けた。

 すると、ベトナム人実習生の入国ラッシュがいっそう加速する。1月18日から21日までの4日間で、6352人もが来日しているのだ。この4日間に入国した外国人が9886人なので、約3人に2人はベトナム人実習生だったわけである。

 ベトナム人実習生の数は昨年6月末時点で約22万人を数え、実習生全体の半数以上を占めていた。そこに11月から今年1月にかけ、さらに3万2000人以上が加わった。

 実習生の受け入れには、「人手不足の解消」という目的がある。その人手不足は、新型コロナの影響で大幅に緩和した。2019年末時点で1.57倍に達していた有効求人倍率は、昨年9月までに1.03倍へ低下した。12月時点で1.06倍と下げ止まってはいるが、低水準であることに変わりない。完全失業者数も200万人以上に増えている。

 実習生にも職場を解雇される者が増え、その数は昨年10月時点で4000人に上った。ただし、大半の実習生には転職先が見つかった。そして何より、11月以降だけでベトナム人を中心に5万6000人近い実習生が新規に入国している。人手不足は緩んだとはいえ、一部の職種では低賃金の外国人労働者に対するニーズは依然として強い。

 一方、在日ベトナム人の数は昨年6月末時点で42万人を超え、2012年以降で8倍にも急増している。そのうち約22万人が実習生、7万人近くが留学生だ。留学生として来日後、日本で就職したベトナム人を含めれば、大半が実習生もしくは留学生として入国している。

 とりわけベトナム人の場合、留学生にも出稼ぎ目的の者が多い。あえて実習よりも留学を選び、出稼ぎに利用しようとする。

 実習生として来日すれば、今回のコロナ禍のような非常事態でもなければ転職は認められない。その点、留学生はアルバイトが自由に選べる。「週28時間以内」という就労制限はあるが、アルバイトをかけ持ちすれば、制限を超えて働くことは難しくない。うまくいけば日本で就職することもできる。また、ベトナムでも「底辺労働者」として知られる実習生と比べ、「留学生」は家族や友人への聞こえがよい。だから出稼ぎ目的の留学が後を絶たない。

 そうした留学生や実習生を中心に、母国への帰国を希望しながら日本に留まっているベトナム人は、2万人にも上るとされる。出稼ぎを切り上げて帰国したくても、コロナ禍の影響で帰れないのだ。

 年明けのベトナム人実習生の入国ラッシュが象徴するように、ベトナムから日本への定期便は、1月21日の入国制限時まで運行されていた。しかし日本発の便は、コロナ感染が拡大して以降、運行が止まっている。

 昨年11月までは、在日本ベトナム大使館などのチャーター便が月に何便か飛んでいた。だが、同月後半に日本から到着した便の客室乗務員にコロナ陽性が判明して以降、帰国の手段が全くなくなってしまった。

 1月に入って、チャーター便の運行は少数ながら再開した。ただし、航空券の値段は、ベトナム帰国後に義務づけられる2週間の隔離費用を含めて20万円と高額だ。金銭的な余裕のない実習生や留学生には、簡単に負担できるものではない。

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