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2021年4月16日

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出井康博 (いでい・やすひろ)

ジャーナリスト

1965年、岡山県に生まれる。ジャーナリスト。早稲田大学政治経済学部卒業。英字紙「ニッケイ・ウイークリー」記者、米国黒人問題専門のシンクタンク「政治経済研究ジョイント・センター」(ワシントンDC)客員研究員を経て、フリー。著書には、『移民クライシス 偽装留学生、奴隷労働の最前線』(角川新書)、『ルポ ニッポン絶望工場』(講談社+α新書)、『長寿大国の虚構 外国人介護士の現場を追う』(新潮社)、『黒人に最も愛され、FBIに最も恐れられた日本人』(講談社+α文庫)などがある。

入館庁は監督責任を果たせ

 一方、法務省出入国在留管理庁(入管庁)は、日本語学校の監督する立場にある。学校が守るべきルールとして、「日本語教育機関の告示基準」を定めている。基準に違反すれば、学校は入管庁に「告示」を抹消され、留学生の受け入れができなくなる。

 その解釈指針には、告示抹消となる留学生への「人権侵害行為」として、パスポートや在留カードの取り上げと並び、以下の具体例が書かれている。

 <進学や就職のために必要な書類を発行しないなど生徒の進路選択を妨害する行為>

 この行為が、まさに起きたのだ。

 しかし入管当局は、留学生たちの訴えに耳を貸さなかった。そのため多くの留学生が希望の進学や就職を諦め、内部進学に応じるしかなくなった。彼らの中には、日本への留学時に背負った借金が返済できていない留学生もいる。母国へ帰れば、借金だけが残ってしまう。だから嫌でも、内部進学するしか道がないのである。

 筆者は昨年初めに学校関係者から情報を得て以降、被害に遭った留学生たちと会い、証言を集めた。その過程で、学校経営者らが留学生たちに対し、内部進学を強要している音声データも入手した。そうした情報をもとに学校側を取材したが、内部進学強要に関する答えは返ってこなかった。

 入管庁にも見解を問うてみた。同庁は、問題の日本語学校を「必要に応じて調査する」と答えた。また、調査で「悪質性が認められれば、告示から抹消する」とも明言した。だが、以降2カ月が経っても、調査が実施される気配はなかった。

 そこで私は、旧知の政界関係者を通じ、内部進学強要問題について詳細に記した拙稿を入管庁幹部に渡してもらった。すると直後、同庁は慌てたように、拙稿で取り上げたベトナム人ら複数の留学生への聞き取り調査を実施した。

 調査があったのは昨年7月である。しかし、いつまで経っても結果が明らかにならなかった。留学生に内部進学を強要した日本語学校への処分がなされた形跡もない。

 調査から丸9カ月を経た今年4月、筆者は入管庁に対し、調査結果と処分の有無について尋ねてみた。関西地方の日本語学校で勤務していた日本語教師の女性から、内部進学強要問題の告発メールを受け取った直後のことだ。それ以外にも、他の日本語学校や専門学校においても同様の人権侵害起きているとの情報が、私のもとに届き続けていた。

 だが、入管庁の対応は冷たいものだった。「個別の事案に関する内容については回答を差し控える」と述べるだけで、問題の日本語学校に対する処分の有無すら明かさない。どうやら処分する気はなさそうだ。留学生たちへの聞き取り調査を実施したのも、政界関係者の顔を立てたに過ぎないのだろう。

 日本語学校が明確な法令違反を犯し、その証拠も揃っているというのに、入管庁は何ら処分せず、見て見ぬフリを決め込んでいる。これでは、悪い学校がのさばり、留学生への人権侵害が横行するのも当然だ。

 コロナ禍が長引けば、日本語学校に加え、一部の専門学校などでも経営難が深刻化していく。そのとき、学費収入を確保するため、学校が留学生への締めつけを強める可能性がある。日本人の目につかない現場で、留学生たちへの人権侵害がさらに増えないとも限らない。入管庁には、監督官庁としての役目を果たす責任がある。

  
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