日本に住む外国人が昨年、8年振りに減少したことが明らかになった。法務省出入国在留管理庁が3月31日に発表したデータによれば、2020年末時点で在留外国人は288万7116人と、1年前と比べ4万6021人減った。
その原因は、新型コロナウイルスの感染拡大だ。コロナ禍の影響で、在留外国人増加の要因となっていた「実習生」と「留学生」の新規入国が大幅に減った。結果、在留在国人全体も減少した。
とりわけ減少が目立つのが留学生だ。留学生は2019年末には34万5791人に達し、12年から2倍近く増えていた。それが1年間で一気に2割近く減り、28万901人まで落ち込んだ。
「留学生の減少は、日本のグローバル化にとって好ましくない」との主張をよく見かける。留学生を増やすため、政府が推進してきた「留学生30万人計画」でも、趣旨に「グローバル化」を掲げている。しかし、近年の留学生急増は、本当に日本の「グローバル化」に貢献したのだろうか。
コロナ禍に収束の兆しが出れば、留学生の受け入れ緩和を求める声が、教育業界や産業界から強まるだろう。その前に、30万人計画とコロナ禍における留学生たちの実態について考えておきたい。
30万人計画が作成されたのは2008年、福田康夫政権下のことだった。当時12万人程度だった留学生を、20年までに30万人まで増やす目標が掲げられた。だが、留学生は思うように増えなかった。11年の東日本大震災で福島第一原発事故が起きると、留学生全体の6割を占めた中国人が日本から去り始めた。当時の中国人には出稼ぎ目的の留学生も多かったが、自国の経済発展で賃金が上昇し、日本で働くメリットが薄れたのだ。
そこで政府は、アジア新興国からの留学生受け入れに舵を切る。その象徴と言えるのが「ベトナム人留学生」だ。ベトナム出身の留学生は12年末には9000人に満たなかったが、6年後の18年までに8万人以上に急増した。こうして新興国から大量に留学生を受け入れ、30万人計画は2020年の目標を前に、いったん達成された。
ただし、アジア新興国出身者の多くには、留学ビザ取得に十分な経済力がない。留学ビザは、アルバイトなしで日本での生活が成り立つ外国人に限って発給されるのが原則だ。しかし、この原則を守っていれば留学生は増えず、30万人計画も達成が難しい。そのため政府は、経済力のない外国人にもビザを発給し続けた。カラクリはこうだ。
新興国の留学希望者には、ビザ申請時に親の年収や預金残高が記された証明書の提出を求められる。ビザ発給の基準となる金額は明らかにされていないが、それぞれ最低でも日本円で200万円程度は必要だ。新興国の庶民にはクリアが難しい。日本への「留学ブーム」が巻き起きたベトナムの場合、国民の多くを占める農民の所得は、せいぜい月2〜3万円に過ぎないのだ。
希望者は、年収や預金残高が改ざんされた書類を準備する。留学斡旋業者経由で、行政機関や銀行の担当者に賄賂を支払ってのことである。行政機関などが正式に発行した書類なので偽造ではない。ただ、数字だけが、捏造されている。捏造書類の発行など日本では起こり得ないが、新興国では賄賂を払えば当たり前のようにできてしまう。
こうして準備された書類は、斡旋業者から留学生が入学先となる日本語学校に送られた後、学校が入管当局へ提出する。そして入管と在外公館の審査を経て、ビザが発給される仕組みだ。
入管や在外公館、また日本語学校にしろ、書類の捏造には薄々気づいている。しかし、問題にすれば留学生は増えず、30万人計画の達成ができない。日本語学校の経営にも悪影響が出る。そのため、捏造に見て見ぬフリを決め込む。
一方、留学生たちは日本への留学費用を借金に頼る。その額は、日本語学校に支払う初年度の学費や寮費などで150万円前後にも上る。この借金を返済しつつ、翌年分の学費も貯めなければならない。
新興国出身の留学生には、仕送りがある者は少ない。逆に母国の家族へ、仕送りするため日本へやってくる。しかし、留学生に許される「週28時間以内」のアルバイトでは、母国への仕送りはおろか、借金を返し、学費を工面することすら不可能だ。だから彼らは、法定上限を超えて働くしかない。そんな留学生を低賃金の労働者として、都合よく利用してきたのが、30万人計画の実態なのである。
多額の借金を背負い来日し、法定上限を超えて働く留学生に、これまで筆者は数多く出会ってきた。しかし留学生政策や日本語教育分野の権威たちは、「出稼ぎ目的で、違法就労している留学生など、ごく一部に過ぎない」と口を揃える。本当に、一部の留学生に限った話なのだろうか。