技能実習生よりも悲惨な留学生
筆者の取材先であるベトナム人留学生の1人が働く北関東の食品関連工場で、昨年暮れに新型コロナのクラスターが発生した。感染者は大半がアルバイトの留学生で、夜勤に向かう人材派遣会社の送迎バスなどで感染が広まった。格安弁当や惣菜などを製造する工場での夜勤は、出稼ぎ目的の留学生にとっては典型的なバイトの1つだ。
工場はしばらく操業を停止した後、再び稼働した。しかし、留学生たちは感染者以外も全員がバイトを失った。工場側が「留学生は感染リスクが高い」と判断し、解雇したようなのだ。
事実、感染リスクと隣り合わせの“密”な生活を送る留学生は多い。日本語学校の留学生寮では、1部屋に数人が詰め込んでいるケースがよくある。大手メディアは実習生に対する「人権侵害」を頻繁に報じるが、就労環境、住環境とも留学生よりずっとマシだ。実習生の場合、雇用主が用意する住居には「1部屋2人以下」しか住めないよう法律で定めてある。だが、留学生には規定がなく、タコ部屋状態での生活を強いられる。そして相場以上の家賃まで学校に徴収されることも多い。
民間のアパートに暮らす留学生たちも、節約のため、たいてい複数で部屋をシェアする。だからバイト先などで新型コロナに感染すると、寮やアパートで「家庭内感染」が広まりやすい。
新型コロナの影響で、仕事を失う留学生が増えている。バイトがなくなった途端、彼らの生活は行き詰まる。日本語学校の学費の支払いもできない。すると学校側から、退学処分を言い渡される。
学校としては、留学生に不法残留されては困る。不法残留者を多く出せば、入管当局から目をつけられ、新規の留学生受け入れが不利となるからだ。それを避けるため、学校は学費の支払いなどで問題のある留学生は、母国へ送り返そうとする。
そんな事情を留学生もわかっているので、学費が払えないと悟った時点で学校から逃げる。借金を抱えたまま帰国すれば、家族は丸ごと破産だ。だから不法残留しても、日本で働き続けようとする。留学ビザで来日後、不法残留している外国人は、昨年末時点で5000人を超えている。バイトを失い、困窮する留学生が急増している現状からして、その数は今後増えていく可能性が高い。追い込まれた末、犯罪に手を染める者も現れるかもしれない。
だが、彼らだけを責めることは酷である。学費稼ぎのため、また低賃金の労働者として、留学生を利用してきた日本側の責任は大きい、
やがてコロナ禍は収束する。その前に、政府には「留学生30万人計画」の是非を総括してもらいたい。本来の留学ビザ発給の基準に沿い、出稼ぎ目的で、多額の借金を背負った外国人までも「留学生」として受け入れてはならない。労働力を欲するならば、正直に「労働者」として迎え入れるべきである。
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