地域で一緒に暮らし
苦労とともに生きる
浦河赤十字病院の精神科病棟は、かつて130床であったが2001年に減床し、今は60床になっている。何かあるとすぐ閉鎖病棟へ入院ではなく、なるべく地域に暮らしながら、互いに支え合いながら外来で対応していくというスタイルの療養生活へと移行してきていることが伺える。
これは、向谷地氏が浦河にやってきて間もない頃からの付き合いの、浦河赤十字病院精神科の川村敏明医師とべてるの家との長い二人三脚の歴史があってこその動きともとれる。
浦河では「入院させない医者」「治せない医者」として知られる、すなわち精神の病気によるさまざまな苦労を誰かに丸投げして「治してもらう」のではよくならないという文化を医療の側から浸透させてきた川村医師と、べてるの家という地域の受け皿ともいえる共同体を創る活動をしてきたソーシャルワーカーの向谷地氏との絶妙のコンビの成せる技ともいえるだろう。
このように書いてくると、まるで一種のサクセスストーリーのようだが、そうでもない。べてるの家は今でも毎日何かが起き、問題だらけである。
「最初、この商店街の真ん中に、私たちが住むと言ったときには商店街の人たちがびっくりしてしまって……」と、共同住居を案内してくれたべてるの家のメンバーは言う。精神疾患や発達障害を持った人と近くに暮らすということは、周囲としては最初はおっかなびっくりのところがあっただろう。いや、今でも実際にご近所から怒られたり苦情が入ったりということは起きている。
でも、そんな苦労も「それで順調」と受け入れ笑ってしまう明るさが、べてるの家の今を支えているのだ。この、後ろ向きなのか前向きなのか分からない、ゆるりとしていて、でも力強い不思議な空気には、何か未知の可能性があるように思えてならない。ぜひこの不思議な空気を味わいに、べてるの家に行ってみてほしい。
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