いまべてるの家では、幻聴は「幻聴さん」と呼ばれ、どんな幻聴さんが自分のところに来ているのか進んで語り、幻覚や妄想などに苦労している人ほどその分野の「専門家」として頼られる。このような風土は、日々の語らいの中から徐々につくりだされたといえる。しかしそれだけではなかった。べてるの家独自のユーモアたっぷり、なんでもありの風土が醸成するのを加速させたのが、「幻覚&妄想大会」である。
ユニークな幻覚や妄想を表彰!
べてるの家では、毎年1回6月に「株主総会」と称する総会が開かれていた。この中のメインイベントが、「幻覚&妄想大会」だ。1995年に第一回が開催され(この時は『幻聴・妄想大会』)、以来毎年欠かさずグランプリが選ばれている。
たとえば、99年のグランプリを獲得したのは、いつも721人の幻聴さんを引き連れて講演旅行に出かけるなどして活躍したOさん。またある年には、UFOに乗って宇宙に行こうという声に誘われてえりも岬に向かったものの、途中でべてるの家の仲間たちに「UFOに乗るには運転免許が必要だよ」と引き留められたYさんが。そして別の年には小泉総理の幻聴さんと恋仲になり、身体の半分が駆け落ちしてしまったCさんといった人たちがグランプリを獲得し、そのユニークな「体験」が会場を爆笑の渦に巻き込んできた。
この「幻覚&妄想大会」がおもしろいということで、べてるの総会には全国から大勢の人たちが集まるようになった。今では総会は「べてるまつり」となり、まつり期間中にはのべ1000人以上が町を訪れるという、年に一度の一大イベントとなっている。
「東北の人たちを応援したい」
浦河を飛び出した当事者研究全国交流集会
そしてもうひとつ、べてるの家の活動の大きな特徴の一つである「当事者研究」も、このような幻聴、幻覚、妄想や苦労をオープンに話し合う風土から生まれた。自分の抱えている病気や障害の苦労を仲間に話すことで問題を外在化させ、仲間と一緒に見つめ直すことで、困りごとや苦労のサイクルが見えてきて自分でコントロールできるようになっていくというものだ(詳しくは本コラム第一回に)。
当事者研究は、2006年には「当事者研究ミーティング」としてべてるの家の毎週のデイケアのプログラムに組み入れられ、さらに、メンバーたちの全国各地での講演などで全国各地に広まり、各地の当事者グループや病院、精神科クリニックのデイケアなどで行われるようになっている。