彼女の行動は愚直だった。若い人との飲み会を開催し、この時、どんなビールだったら飲みたいか、ビールの問題点とは何か、といったことを聞いて回った。すると、大学生の女の子が「私はビールは嫌い」と言い出した。彼女は食いついた。「なぜ?」
「するとその女の子は『結局、半分以上捨ててしまうから』と仰ったんです。聞けば、サークルのみんなと砂浜に行き、缶ビールを飲んでいたら、話に夢中になるうちにぬるくなってしまい、まずい、と捨てたことがあったそうなんです」
キリンビールの社員が飲む時は、どんどんビールを頼むから、ぬるくなることなどない。砂浜で飲む時はクーラーボックスを持って行く。だから、この問題点が社として議題になったことはなかった。そして、大学生の女の子が話してくれた問題点が世の中全般に当てはまるかどうかを調べてみると──居酒屋などでビールを1杯飲み切るためにかかる時間は平均22分だった。とりあえず生を注文し、すぐ飲み干すのでなく、特に若い人は腰を据えてじっくり飲んでいたのだ。
これに対する施策として出てきたのが、泡を凍らせる『フローズン<生>』だった。彼女は泡の見た目にもこだわった。
「若い人を分析していくと、見た目で『おいしそう!』『飲んでみたい!』と思っていただかないと試してもらえない、ということがわかったんです。今の50代以上の世代は、例えば新しい携帯電話が出た時、取扱説明書を端から端まで読んでから使ってみる、というスタイルが普通でした。だからビールでも『冷たい泡の効果で30分以上、飲み頃の温度が持続し~』という説明で動いてくれるのです。しかし今の若い人は、とりあえず使ってみて、よければリピートして下さいます。要するに、見た目で『面白そう!』と思ってもらわなければならないのです。だから──実を言うとあの泡、ソフトクリームのように盛る必要はないのですが、若い人を驚かせたいと思い、この形にしたんですね」