彼女は「逆に、娘として可愛がられるしかない」と考え、わからないことがあれば頭を下げて質問し、ミスがあれば素直に謝り、しかし、いつも明るく振る舞うことで取引先から受け入れられていった。
次第に彼女は、営業として提案ができるようになりたいと考え、ある努力を始めた。
「お店の方に提案する時でも“この地域は高級住宅街なので、高価格帯の商品を置きましょう”では話になりません。そこで、近所を歩いて駐車場の車を見てみて高級外車が何台止まっているか数え、レポートを書いたりしましたね。この時、車にゴルフバックが積んであることが多いと気づき『スポーツのあとにこの商品をどうぞ』と書いた売り場を作るよう、提案をさせていただきました」
それだけではない。会社で「ビール会社の営業は、ゴミ箱を見て売れ筋をつかむくらいの覚悟で働け」と聞くと、彼女はさっそく、朝、ゴミの集積場を訪ねるようになった。
「仮にゴミ袋の中に、リーズナブルな銘柄の500ml缶がたくさんあったとしますよね。すると『なるほど、この地域では安い500ml缶が売れているのか』とわかります。実際に、これを論拠に売り場作りを提案すると、店長さんから『そこまでしなくていい』とクレームをいただいてしまいましたが(笑)」
彼女いわく、人は理屈でわかった時「ふぅ~ん」と思う。しかし、感性が刺激され、本当にいいと思うと「へぇ!」となると言う。例えば「この地域は高級住宅街だから高級な銘柄を置こう」では、あまり感じるところはないが、高級車にゴルフバッグが積んである、自分の足で調べた、と言われれば、提案を受けた側も心が揺り動かされる。
そして彼女は、この「自分の足でつかんだ情報」を大切にする姿勢で『フローズン<生>』のヒットを実現したと言う。