世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2021年8月3日

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 7月1日、EUの経済・財務相理事会は、欧州委員会の勧告に基づき12の加盟国のパンデミックからの復興計画を承認した。12カ国は、オーストリア、ベルギー、デンマーク、フランス、ドイツ、ギリシャ、イタリア、ラトビア、ルクセンブルグ、ポルトガル、スロバキア、スペインである(この他にスロベニア、リトアニア、キプロス、クロアチアの4ヶ国が既に欧州委員会の承認を得ている)。

 今後、これら第一陣の諸国に復興基金から贈与および融資の形でディスバースが順次行われることになる。総額7500億ユーロの全体計画にEU首脳会議で政治的合意を達成したのが昨年7月であるから、それから随分時間を経過し、その間、米国が大規模な経済対策を打ち、中国が新型コロナウイルス禍以前の経済水準に回復する状況があり、EU内では復興基金の始動の遅れに苛立ちもあった様子である。欧州委員会としては極力急いだということであろう。

 他方、財源となる共通債券については、6月15日、欧州委員会が、10年債(利回り0.086%)を発行した。200億ユーロの発行額に対して、およそ7倍の1420億ユーロの応募があり、まずは順調な滑り出しであった。2026年末までに最大8000億ユーロ超の発行が予定されている。高格付けのEUが定期的に大規模な起債を行うため、政府関係機関債市場において存在感を高めると見られる。

 ケネディー・スクール上級フェローでフィナンシャルタイムズ紙客員コラムニストのメーガン・グリーンは、7月13日付け同紙掲載の論説‘Recovery fund will test the appetite of Europe’s governments for reform’は、復興基金の前途に予想される諸困難について簡潔に取り纏めている。

 論説が指摘する困難の第一は、EUの資金を受領し支出する、いわゆる構造基金の先例が芳しくないことである。14年から20年までの間にEU27カ国は平均して構造基金の50%足らずを支出し得たに過ぎない。成績が悪いのはスペインとイタリアで、それぞれの吸収率は35%および39%であるが、両国が復興基金から最大の資金を受け取ることになっている。

 論説が指摘する困難の第二は、管理の不手際や煩雑な官僚的手続きが往々にしてEUの資金の効率的使用を妨げることである。南と東の加盟国ではこれが問題となり得る。構造基金と違って猶予期間がなく、復興基金は26年で終了する。2年に一回レヴューが行われ、進展がなければ新たなディスバースは行われない。そうなると復興基金の全体の額が縮むことになる。

 論説が指摘する困難の第三は、改革が実行されないという心配である。国別の勧告の多くはパンデミックへの対処に関するもので、殆どの加盟国が実行している。しかし、脆弱な加盟国については、投資の障害の縮減、ビジネス環境の改善、司法制度の改革、行政の改善といった項目もある。EUの支援と引き換えに、構造改革を求められたことは初めてではないが、その結果は国によりまちまちである。

 グリーンによる上記の指摘は的確と思われる。復興基金は成功させる必要がある。その前提となる加盟国の復興計画の内容(投資と改革)がどうであるかは分からないが、欧州委員会の審査を経て承認を得たことは、定められた要件を充たしているということである。勿論、今後の実行如何であるが、取り敢えずは、そこに加盟国の努力を見ることは可能であろう。

 第一陣の12カ国について見ると、贈与はいずれの国も限度一杯の要求をしたようであるが、融資を申請したのはギリシャ、イタリア、ポルトガルの3カ国(ただし、ポルトガルは限度額に比し少額)にとどまっている。イタリアとスペインが最大の受益国であるが、イタリアは贈与で689億ユーロ、融資で1226億ユーロを承認されているのに対し、スペインは贈与で695億ユーロを承認されているが融資を申請していない。上記の論説は両国の資金の吸収能力(つまり消化率)が低いことにも懸念を表明しているが、両国の対応は対照的で、その違いが際立っている。14年から20年までの7年の予算年度にEUが加盟国に支援した構造基金の吸収能力(つまり消化率)を見ると、スペインは36%、イタリアは43%にとどまっている。これに対し、フランスは61%、フィンランドは81%である。

  
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