2024年4月19日(金)

オトナの教養 週末の一冊

2021年8月13日

6回目の大量絶滅時代

(ipopba/gettyimages)

 小林さんによれば、現在は6回目の大量絶滅時代に突入したところだ。

 人間の活動により短期間に地球温暖化が進行し、森林や干潟は開発により急速に減少。予測では、今後数十年以内に800万種の動植物のうち100万種に絶滅の可能性がある。過去の絶滅と比べても最大級のスピードと言える。

 「ドミノ倒しで絶滅が進むと人類は食料争いなどで悲惨な未来になる、とありますね。果して人類は生き残れるでしょうか?」

 「わかりません。言えるのは、人類が絶滅しても、地球の生物種の大枠に問題はないということ。人類と共生している犬や猫の生存は困難かもしれませんが、鳥類、爬虫類、魚類は確実に生き残ります。植物も大丈夫。昆虫類も影響はないです。昆虫類は現在も繁栄中なので、いずれスーパー昆虫が出現するかも知れません」

 別の章では、人類は現代の社会的要因(先進国の人口減少など)によっても、今後100年以内に壊滅的な危機を迎える可能性あり、とある。

 いずれにせよ、「種としての死」が迫っているのだ。解決策はないものだろうか、例えばAI(人工知能)を活用するとか?

 「今AIは、人の職業をとってしまい、減らす方向に進んでいますが、これはおかしいですよね。またAIからドローンによる殺人兵器なども生まれています。生物学では遺伝子や胚の改変に厳格な規制があるのに、コンピューター・サイエンスには何の防止策もない。その点を再考すべきです」

 「宇宙進出はどうですか?」

 「いいですね。宇宙へ、という可能性は大いにあります。他の生物種に迷惑をかけないよう、人類が地球を飛び出す。全員ではなく一部ですが、宇宙ステーションなり惑星なりで野菜や家畜を育て、宇宙で穴蔵的生活を送る。そのためにAIを活用するという方策は十分にありだと思います」

 最後に、小林さんの現在の研究テーマについて聞いた。酵母細胞では1回の分裂で、老化(母細胞)と若返り(娘細胞)が起きる。その若返りの謎を研究しているのだという。

 「生命は最初の1個の細胞から現在の全生物種まで途切れることなく続いています。これは、個体は死ぬのに全体では若返りを繰り返しているからです。この根本的な生死の謎が、酵母細胞の研究でわかるかも知れないと思うんですね」

 酵母は単細胞の菌類(カビやキノコの仲間)。母細胞は2時間で1回分裂し、20回の分裂で死に至る。寿命は2日だ。だが、母細胞から出芽(細胞分裂)し生まれた娘細胞が若返る。

 「なぜそんなことが起こるのか不明です。でも考えてみれば、人間も親は老化して行くのに生まれてくる子どもはリセットされて若返る。生物としては酵母と共通しているんです。だから、酵母細胞の若返りの仕組みがわかれば、生物の生と死の謎も解明できる、かも知れない(笑)」

 人間は「死を恐れる」動物である。けれど、恐れるだけでなく「死」について考え、探求すれば、本書の帯文にあるように、「死生観が一変する」ということもあり得る気がした。

  
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