オトナの教養 週末の一冊

2021年8月13日

»著者プロフィール

 生物が死ぬことの理由を生物学者の立場から解き明かした本書が話題になっている。

 「発売3カ月で、現在の部数は?」

 「先日、おかげさまで7万部になりました」

 一般向けに書かれてはいるが、基本は科学の専門書。それを思えば、短期間に7万部という部数は大ヒットと呼んでいい。

 もともとは、理系高校生で生物学の専攻者が少ないため、それならいっそ高校の先生や一般の大人向けに生物学の重要性を説く入門書を書こう、と著者の小林さんは考えたそうだ。

 「コロナ禍で、人間の死が急に身近になったせいで読まれたんでしょうか?」

 「そうかも知れません。執筆の途中でコロナ感染者が急拡大したわけですが」

 著者にとっては、「想定外だった」らしい。

 本書によると、46億年前に太陽系ができた時、地球は太陽と「ほどよい距離」だったため、生物の材料の有機物が燃えたり凍ったりすることなく、化学反応が進行した。

 そして糖、リン酸、塩基から成る遺伝物質のRNA(リボ核酸)が生まれ、地球環境が安定してくると、より効率的な遺伝物質DNA(デオキシリボ核酸)と膜を持った細胞が出現する。38億年前のこと、「単独で存在でき、それ自身で増える」生物の誕生だ。

 「つまり、生物は偶然にうまれた?」

 「そうです。遺伝物資が作っては壊れを繰り返し、生産性と保存性の高いものが生き残って最初の細胞ができました。私たちまで続く生き物の始まりです」

 本書で強調されるのは、「変化と選択による進化によって地球上の生物が作られた」というメッセージである。

 「進化(変化と選択)するためには、生物の多様性が必要なわけですね?」

 「すべての生物は常に変化し新しく生まれ、古い個体と入れ替わっています。ということは、別の言葉で言えば、遺伝子の変化と個体の死が現在の生物の存在と多様性を支えている、ということになります」

 変化しても選択されなかった生物は、死んで他の生物の出現の材料となる。そこから導き出されるのは、「死」とは、生物学的に言えば、「生物が(次の世代のために)死ぬ」ということだ。

 「当然人間も例外ではない?」

 「はい。生物がなぜ死ぬかと言うと、死が生命の持続性を維持する原動力だから、です。ヒトも同じです。生まれるのは偶然ですが、死ぬのは利他的な必然と言えます」

 人間(ヒト)の場合、病気・事故などのアクシデントか、または老化による細胞機能や免疫力の低下によって死に至る。

 人体組織や器官を構成する体細胞は、約50回分裂すると老化して死ぬ。失われた体細胞は幹細胞によって供給されるが、幹細胞も加齢によってゆっくり老化し、やがて死ぬ。年齢で言えば老化は55歳頃から始まり、85歳以降は死亡率が急上昇する。最大寿命は約115歳。

 「でも、小林さん自身、本の中で記していますよね。父親が亡くなった時に母親が嘆き悲しんだ。それはもっとも人間らしい感情だ、と。生物学的な死が“利他的な必然”とすると、それと“人間らしい感情”との折り合いをどうつけて、どう納得すべきでしょうか?」

 「その折り合いはつかないでしょう。身近な人の死はとても辛く、悲しみを背負いながら生きて行くしかありません。ただし、そうだからといって、生物学の立場から見た死の意味が変わるわけではないですけど」

 人間に「死の恐れ」があっても、「(次世代のための)死は免れない」のである。

 マクロとミクロと、双方の視点で生物学的な死の謎を探求する本書では、個体の死の他に、種の死についても考察を向けている。

 地球上の生物は、過去に5回の大量絶滅を体験した(5回目は約6650万年前。隕石の衝突によって生物種の75%が絶滅した。これにより、恐竜が支配した中生代が終わり、哺乳類が繁栄する新世代が到来した)。

関連記事

新着記事

»もっと見る