2024年4月20日(土)

世界の記述

2021年9月8日

 2001年9月11日、米同時多発テロが起きた直後、米国には感情があふれていた。怒り、恐怖、悲しみが渦巻き、報道番組でニュースキャスターが「テロリストの反米憎悪の根深さ」を語るうちに泣き崩れる場面もあった。それが合図のようにむき出しの感情というブームが世界に広がった。その頃を境に控えめさや上品は死語となり、人々はネット、SNSで聞くに耐えない言葉で互いを非難するのが日常となった。

 それから20年、米国人は「感情」をどこかに置き忘れたのか、すっかり冷めきっている。アフガニスタンからの米軍撤退を歓迎も批判もせず、「まだいたのか」と無関心のままの人が少なくない。

 徐々に冷めていったようだ。米ギャラップ社の世論調査によると、2002年には93%がアフガンへの軍事介入は失敗ではなかったと答えている。介入直後、「イスラム世界の民主化」といったスローガンが語られた頃のことだ。だが、介入への支持率は年々下がり、国際テロ組織アルカイダの指導者ウサマ・ビンラディンが米軍の手で殺害されてから1年後の2012年には、66%がアフガンでの軍事介入に反対した。そして、トランプ前大統領による「アメリカ・ファースト」政策で、アフガン内政への関心がますます遠のき、バイデン政権も特段の抵抗もなく撤退政策を引き継いだ。

「世界に民主主義を」という大義も「テロの温床を叩く」という実利もアフガン介入で叶うことはなかった。USAトゥデイの8月下旬の調査では、「アフガンが再びテロリストのベースになるか」との問いに、米国人の73%がとイエスと答えている。

 ニューヨーク市在住の作家、ショーン・サカモトさんはこう語る。

「20年前にすでに、この戦争が米国の屈辱的な敗北に終わり、いずれタリバンが復権すると見る人は結構いた。言えるのは、この失敗、災難から米国人が何かを学んだとはとても思えないことだ。米国は今、かつての英国やソ連と同じ『帝国の末路』というシナリオに乗り、悲惨な状態へと向かっている。軍による海外での愚行は国民の分断をあおり続けるだろう。過去20年の失策で唯一利を得たのは、軍産複合体だけだ。この国でも外国でも庶民は何も得ていない」

 国の失敗に落胆もせず、感情的にもなれない状態に今の米国はあるのだろうか。だとすれば、アフガンはほどなく話題にもならず、忘れられていくだろう。

 
 
 
 

   
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