世界の記述

2021年9月8日

»著者プロフィール
閉じる

藤原章生 (ふじわら・あきお)

作家、毎日新聞記者

1961年、福島県生まれ。北海道大学工学部卒業後、住友金属鉱山に入社。89年に毎日新聞社に入り、ジャーナリズムの道へ。92年に外信部に所属し、 93年にメキシコ留学。帰国後の95年から南アフリカ・ヨハネスブルグでアフリカ特派員、2002年からは、メキシコ市支局長、ラテンアメリカ特派員。08年〜12年までローマ支局長。5 年半に渡るアフリカ特派員時代の取材を元にした著書『絵はがきにされた少年』(集英社文庫)で05年の開高健ノンフィクション賞受賞。著書に、『世界はフラットにもの悲しくて』(テン・ブックス)、『資本主義の「終わりの始まり」―ギリシャ、イタリアで起きていること』 (新潮選書)、『ギリシャ危機の真実 ルポ「破綻」国家を行く』(毎日新聞社)『翻弄者』(集英社)、『ガルシア=マルケスに葬られた女』(集英社)。

 2001年9月11日、米同時多発テロが起きた直後、米国には感情があふれていた。怒り、恐怖、悲しみが渦巻き、報道番組でニュースキャスターが「テロリストの反米憎悪の根深さ」を語るうちに泣き崩れる場面もあった。それが合図のようにむき出しの感情というブームが世界に広がった。その頃を境に控えめさや上品は死語となり、人々はネット、SNSで聞くに耐えない言葉で互いを非難するのが日常となった。

DVIDS

 それから20年、米国人は「感情」をどこかに置き忘れたのか、すっかり冷めきっている。アフガニスタンからの米軍撤退を歓迎も批判もせず、「まだいたのか」と無関心のままの人が少なくない。

 徐々に冷めていったようだ。米ギャラップ社の世論調査によると、2002年には93%がアフガンへの軍事介入は失敗ではなかったと答えている。介入直後、「イスラム世界の民主化」といったスローガンが語られた頃のことだ。だが、介入への支持率は年々下がり、国際テロ組織アルカイダの指導者ウサマ・ビンラディンが米軍の手で殺害されてから1年後の2012年には、66%がアフガンでの軍事介入に反対した。そして、トランプ前大統領による「アメリカ・ファースト」政策で、アフガン内政への関心がますます遠のき、バイデン政権も特段の抵抗もなく撤退政策を引き継いだ。

「世界に民主主義を」という大義も「テロの温床を叩く」という実利もアフガン介入で叶うことはなかった。USAトゥデイの8月下旬の調査では、「アフガンが再びテロリストのベースになるか」との問いに、米国人の73%がとイエスと答えている。

 ニューヨーク市在住の作家、ショーン・サカモトさんはこう語る。

「20年前にすでに、この戦争が米国の屈辱的な敗北に終わり、いずれタリバンが復権すると見る人は結構いた。言えるのは、この失敗、災難から米国人が何かを学んだとはとても思えないことだ。米国は今、かつての英国やソ連と同じ『帝国の末路』というシナリオに乗り、悲惨な状態へと向かっている。軍による海外での愚行は国民の分断をあおり続けるだろう。過去20年の失策で唯一利を得たのは、軍産複合体だけだ。この国でも外国でも庶民は何も得ていない」

 国の失敗に落胆もせず、感情的にもなれない状態に今の米国はあるのだろうか。だとすれば、アフガンはほどなく話題にもならず、忘れられていくだろう。

 
 
 
 

  
▲「WEDGE Infinity」の新着記事などをお届けしています。

関連記事

新着記事

»もっと見る