2024年11月24日(日)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2021年8月30日

razihusin / Ungrim / iStock / Getty Images Plus

 ワシントン・ポスト紙コラムニストのファリード・ザカリアが、8月16日付の同紙で、米軍がタリバンに勝てないことはつとに明らかだったことであり、その実態が覆い隠されていただけだと論じて、バイデン大統領のアフガニスタン撤退を基本的に支持する論説を書いている。

 米国内外の言論は、バイデンのアフガニスタン完全撤退の決定に対する批判一色のようであるが、ワシントン・ポストのザカリアは以前にもバイデンの決定を支持する論説を書いたことがある。今回の論説も、アフガニスタンの政府が腐敗し正統性に疑念が持たれる存在であるが故に、政府とその軍はタリバンの攻勢に反撃して戦う意思も能力もとっくに失っていたと指摘し、米軍がその実態を覆い隠して来たが、タリバンに勝てないという事実は変えようがなかったと論じて、基本的に米軍のアフガンからの撤退を支持している。

 8月16日、ホワイトハウスで演説したバイデンは、「アフガンの政治指導者は諦め国を逃れた。アフガン軍は時に戦おうともせず崩壊した。いずれにせよ、先週の事態の展開はこの時点でアフガニスタンにおける軍事的な関与を終わらせることが正しい決定であるとの論拠を強化するものである」と述べ、アフガン軍が戦おうとしない時に米軍に戦いを強化するよう命ずることは間違いであるとも述べた。

 ザカリアの論説とバイデンの演説は同じことを言っているが、間違ってはいない。しかし、それなら、この判断を早きに及んで下し、もう少し巧妙な撤退の計画は作れなかったものか。無理な注文かも知れないが、判断の悪さを指摘されても仕方がない。

 しかし、バイデンの演説には悲劇と混乱の責任をアフガニスタンに転嫁するものとの批判がある。米国の行動がアフガン政府と軍に無力感と自棄の感情を起こさせた可能性があることを考えれば、この批判には理由があるであろう。特に、トランプは撤退を急ぎたいばかりにアフガン政府の頭越しにタリバンとの交渉に踏み切り、「イチジクの葉」の如き合意に至った。

 その関連で、嫌がるアフガン政府に援助の停止を脅しにタリバンとの捕虜の交換に応じせしめるなど(解放された捕虜がタリバンの戦闘力を強化したとの説がある)、高圧的な態度が目立った。このドーハ合意で米軍の後ろ盾を失うことを知った政府軍の兵士が無駄な努力を放棄しタリバンとの取引きで武器を捨てる事態が相次ぎ、ドミノのように拡大したとの観測は恐らく当たっているであろう。


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