世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2021年8月23日

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 8月15日、アフガンのガニ大統領はタリバン勢力の攻勢、全土制圧に耐えかね、隣国タジキスタンに出国、カブールの中央政府は事実上崩壊を迎えた。米当局や安全保障専門家たちの予想をはるかに上回る速さで事態は進行した。アフガンではタリバンを中心とした政権が樹立されることになる。ガニが去った現在の中央政府は平和的権力の移譲を進めるとしている。

 米国民は米軍のアフガン撤退を概ね歓迎しているが、バイデン政権の対応ぶりには、安全保障の専門家たちから、厳しい批判や疑問が投げかけられている。アフガンからの米軍撤退は、トランプ政権下の2020年2月のカタール合意から始まっている。それによれば、タリバンが国内でテロ活動を許さないことなどを条件に、今年5月までに米軍を完全撤退するということであった。

 後を継いだバイデン政権は、タリバンに課していた条件を事実上撤廃する代わりに、撤退期限を数か月延長したという経緯がある。バイデンは、タリバンの急拡大を阻止する何らかの手を打つべきではないかと性急な撤退を戒める声にも耳を貸さなかった。バイデン政権の対応の是非を検討することは無意味ではない。

 しかし、カブール政府の崩壊は早晩避けられなかったことである。米国が支持してきたカルザイ、ガニの歴代政権は、汚職にまみれ、統治能力が全く不十分であった。アフガンでは部族主義がはびこり、彼らの目まぐるしい合従連衡が統治を極めて困難にしているという事情もある。

 米軍はアフガンの政府軍に支援を施し、強力な軍を造ったと主張してきたが、どうも実態はそれとはかけ離れた姿であったらしい。BBCの報道によれば、記録上はアフガン治安部隊は30万以上を擁することになっていたが、名前だけの「幽霊兵」も多く、アフガニスタン復興特別監察官(SIGAR)の米連邦議会への最新報告は、「実際の兵力のデータは正確性が疑わしい」と指摘していたという。

 そもそもアフガンでの戦争は、2001年の9・11テロを受け、実行犯であるアルカイダを当時のタリバン政権が支援したことに対する自衛権の発動として開始されたものである。テロを根絶し、罰し、裁くことが目的であった。それがいつの間にか、テロの温床にしてはいけないという錦の御旗の下、アフガンの国造りが戦争目的に変わってしまった結果、泥沼化した。

 なお、ブリンケン国務長官は、アフガンでの戦争はビンラーディンを殺害するなどテロに対する戦争としては成功したのであり、今後5年、10年も米軍を留めおくことは米国の国益に反する、という趣旨のことをCNNの番組で述べている。
 
 今回の「陥落劇」は、ベトナム戦争でのサイゴン陥落を想起させるとしてセンセーショナルに報道されている。米国衰退論、米国の撤退を中国などが埋めることへの懸念、同盟国を見捨てたことによる米国への信認の低下などが、喧しく指摘されることになるだろう。しかし、こうした議論は適切であるのか、疑問がある。

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