2024年12月23日(月)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2021年9月6日

  アフガン情勢は、タリバンによるカブール奪取と中央政府崩壊、IS-K(イスラム国ホラサン州)によると見られる自爆テロ(米兵13人を含む180名以上が死亡)、米軍のドローンによるIS-Kの指導者殺害など、目まぐるしく展開しているようにも見えるが、ここでは、アフガンの今後につき、もう少し長い目で3つの視点から見ておきたい。

 第1に、米国をはじめとする国際社会において一番心配されているのは、アフガンが再びテロの温床にならないかということである。しかし、この先2~3年、さらにはそれを超えてもっと長い期間、テロの温床になる心配は低いように思われる。
 
 テロと一口に言っても色々なものがあり、またイスラムテロにも様々なものがある。アフガンで主に懸念されてきたのはアルカイダである。アルカイダの指導者だったオサマ・ビン・ラーデンは「現地の政府、近い敵よりもそれを支えている遠い敵を攻撃すべし」という典型的な国際ジハードの提唱者であった。オサマ亡き後、そして、アルカイダも中東の現地問題にかかわる中で、このオサマ・ビン・ラーデンのイデオロギーはその影響力をかなり失ってきたと考えられる。

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 タリバンは基本的に現地でのイスラム原理主義の実施に関心があり、オサマと同じイデオロギーは持っていないと見てよいのではないか。米国にオサマの引き渡しを求められ、それを拒否することと、オサマとイデオロギーを共有することは別のことである。タリバンがアルカイダにアフガン居住を許容することはありうるが、アフガンを基地として対米テロをさせる、または自らそれに乗り出す可能性はほぼないであろう。

 なお、今回自爆テロを引き起こしたのはIS系の組織だが、ISとアルカイダ、タリバンは敵対関係にある。ISはイラクとシリアにおける「カリフ国」が崩壊して以降弱体化しており、アフガンではアルカイダ、タリバンと厳しく対立しているので、アフガンに新たな確たる拠点を設けることはなかなか想定しがたい。

 第2に、アフガンの今後の政治については、タリバンは「我々の順番が来た。権力を独占した」と考えているというが、タリバンの権力基盤がそれほど強固であるかは疑問がある。タリバンはパシュトゥーンであるが、アフガンには14の民族グループがいる。タジク、ハラザ、ウズベク、バルチ、トルクメン、アラブなどである。

 民族グループには軍を持っているグループがいる。例えば、タジク人には、旧ソ連に抵抗した英雄マスード将軍という人がいた(9・11の2日前に暗殺された)が、その子息がパンジール渓谷を拠点にタリバンに抵抗する構えを見せている。現在はタリバンとの停戦に応じているらしいが、事の成り行き如何によっては、内戦の危険もある。

 また、宗教的にもスンニ派とシーア派がいる。こうした中では、挙国一致政府か民族間での権力分有がないと国内政治は安定しないのではないか。


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