2022年12月6日(火)

21世紀の安全保障論

2021年9月21日

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小谷哲男 (こたに・てつお)

明海大学外国語学部教授

日本国際問題研究所主任研究員を兼任。専門は日本の外交・安全保障、日米同盟、インド太平洋の国際関係。主な共著に『アジアの国際関係―移行期の地域秩序』(春風社)など。
 

 カブール陥落により、米国がアフガニスタンを見捨てて敗退する形になったため、米国の威信と信頼性の低下を指摘する声が高まっている。特に、バイデンは想定外のカブール早期陥落を正当化するにあたって、アフガン政府と軍が自国を守ろうとしなかったことをその理由としたため、同盟国の中に不安が広まる原因となっている。

 中国の環球時報は、バイデン政権がアフガン政府を見捨てたことを指摘し、台湾に対して米国との関係を見直すように促す論説を掲載して、台湾世論を揺さぶろうとした。これに対し、台湾の蔡英文総統は自国の防衛力の増強を続けることを強調し、サリバン米大統領安保補佐官は台湾を含めた同盟国への関与が揺るぎないことを確認しなくてはならなかった。

認めた人権外交の限界

 米国と日本、豪州、インド4か国が安全保障や経済を協議する枠組み「Quad(クアッド)」の中でも、豪州はバイデン政権のアフガン撤退方針が、中国との戦略的競争を有利にすることを歓迎しているが、インドはタリバン政権とパキスタンの友好関係を懸念し、米軍撤退に批判的である。

 日本への影響としては、アフガン撤退が米国の日本防衛義務に悪影響を与えるとは考えられないが、中国が米国の衰退を確信し、尖閣諸島などでより強硬な姿勢を見せることは警戒しなければならない。

 そして、バイデン政権は人権外交を前面に打ち出しているが、アフガン撤退によりタリバンによる人権抑圧が現実のものとなってしまった。しかも、バイデンはこのことを「断腸の思い」とし、国際社会の中で声を上げていくと述べているが、米軍撤退を正当化し、他国の再建の時代は終わったと宣言している。

 バイデンが人権外交の限界を認めたことは現実的な判断ではあるが、これにより、中国は米国が香港やウイグル自治区における人権侵害を批判しても、ますます意に介さなくなるであろう。また、東南アジアやアフリカ、中南米などなど、人権状況が悪化している国に対しても、民主化を支援する米国の影響力が低下することになる。それにより、中国にとってますます望ましい国際環境が生まれることになる。

撤退失敗の余波前提に日米同盟強化を

 最後に、軍事面でみれば、アフガン戦争がこれまでアジアでの米軍予算を増やすのを妨げてきたとは言えない。アフガン戦争は、国防予算とは別枠の海外緊急作戦経費で主にまかなわれてきたからである。しかも、オバマ政権以降、アジアには優先的に最先端の艦船や航空機が配備されるようになってきた。

 問題は、これら最先端の装備が配備されても、訓練費や燃料費が削減され、飛行場、港湾などのインフラ整備も不十分なことである。このため、米インド太平洋軍は人民解放軍との軍事バランスを回復させるため、インフラや兵站にかかる予算の増額を求めてきた。

 バイデン政権は、2022年度国防予算要求に太平洋抑止構想と飛ばれる51億ドルの基金を含め、インド太平洋軍の予算を大幅に増額しようとしている。しかし、その内訳は、艦船や航空機などのプラットフォームの調達が主で、プラットフォームの運用を支えるインフラ整備にはほとんど予算が付けられていない。

 中国との戦略的競争に勝つためには、米国内で国防予算の正しい使い方についてコンセンサスが必要である。そして、それはアフガンとは無関係の問題である。

 バイデン政権は、10月の20カ国・地域(G20)での米中首脳会談を模索しているが、中国側は明らかにアフガン撤退で失敗した米国の足元を見て、これに応じていない。唐突に米英豪が原子力潜水艦の技術協力を発表し、元々豪州に潜水艦技術を提供するはずであったフランスを激怒させたため、中国はますますバイデン政権の外交の失敗につけこもうとするであろう。

 日本は、バイデン政権によるアフガン撤退失敗の余波が当面続くことを前提に、日米同盟の強化のために必要な諸策を検討しなくてはならない。

  
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