冷泉彰彦の「ニッポンよ、大志を抱け」

2021年10月1日

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冷泉彰彦 (れいぜい・あきひこ)

作家・ジャーナリスト

ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。近著に『「反米」日本の正体』(文春新書)など。メールマガジンJMM、Newsweek日本版公式ブログ連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

 2点目は、この間の日本文化への「憧れの拡大」である。食文化における日本ブームは、寿司ブーム、焼き鳥ブームがいずれも本格化したのを受けて、現在は異常なまでのラーメン人気が進行中だ、米国東部の場合、ニューヨークなど主要都市だけでなく、人口数万人の地方都市や郊外のショッピングモールにラーメン専門店が出店している。

 そこに集う客は「必ず日本で本場のラーメンを食べてみたい」という願望を抱いていると言っていい。アニメブームも、「鬼滅の刃」が全米での劇場における興行収入で2週連続1位という信じられない人気となるなど、2010年代とはまた違う段階に入っている。

羨望の眼差しも受ける日本人と文化

 3点目は「顔の見える」日本人の存在だ。具体的には、アメリカ大リーグ(MLB)の大谷翔平選手と、「片付け評論家」の近藤麻理恵氏を挙げてみたい。この2人は、単にアメリカにおいて著名だとか一流だというのではなく、大谷選手の場合は二刀流で全ての野球ファンを圧倒する成功を収めているし、近藤氏の場合はライフルタイルの発信者としてその存在はカリスマ化している。

 そして、両名とも日本式の礼儀正しさや一生懸命さを持ち込んで、それがそのままアメリカ人の「羨望」と「尊敬」の対象となっている。両氏のファンであれば、当然彼らの持っている文化や価値観の故郷に対して関心を抱くのは当然であろう。

 4点目は、日本の「シニア文化」への関心の高まりである。従来の日本ブームは、アニメやゲーム人気などが中心であったことから、ミレニアル世代と呼ばれる40代以下の層が中心だった。だが、ここへ来て「日本式の生きがい論」と呼ばれる高齢者向けの自己啓発本が何冊もブームとなっている。

 内容は、「自分の分をわきまえる」とか「多くを望まないことで幸福感を得る」といった一種の「引き算思考」だが、それが彼らの目からは「禅の神秘」とか「自然との一体感」などという文化に重なることで日本への憧れを増幅させることにもなっている。これも2010年代までには見られなかった現象だ。

 5点目としては、21年夏の東京オリンピック、パラリンピックの開催成功の影響だ。パンデミック下の開催、しかも無観客ということで、アメリカでも五輪中継の視聴率は振るわなかった。だが、それでも五輪は五輪である。

 多くの記者が来日し、行動自粛期間はコンビニに通って、弁当やパンの美味しさに驚嘆して、TVで「B級グルメの食レポ」を流し続けていた。また、米国選手団の公式アパレルの中には、ハローキティをキャラクターに使ったものがあり、多くの女子選手が移動時などに着用して人気化し、グッズ販売のサイトでは大会直後に売り切れとなっている。そんな中で、「行きたいが今は行けない日本」への憧れが、アメリカ人の中に増幅しているのは間違いない。

コロナ対応でも一定の評価

 ちなみに、米国の一部ではアジア系へのヘイトの問題が発生し、日本人も被害に遭っている。ただ、今回のヘイト犯の多くは、日本と中国の違いも区別できないような海外への無関心層が中心であり、そもそも日本ツアーへの予備軍ではない。反対に、ツアー予備軍の人々は、例えば米中関係が難しい時代だからからこそ、日本への好感度を高めているのは事実である。

 そんなわけで、「インバウンドの爆発的な再開」へ向けて社会情勢も後押ししていると言って良い。肝心のコロナ禍についても、日本は米国と比較すると、感染者数も死者も人口比で10分の1以下であり、しかも急速にワクチン接種率を向上させていることは、既にアメリカでもよく知られている。また、世界が激動の時代だからこそ、治安が良く、人権が保障されている民主国家日本のイメージは相対的に向上している。その意味でも「ポスト・コロナ」の時代には日本は「真っ先に行きたい」目的地になる。

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