冷泉彰彦の「ニッポンよ、大志を抱け」

2021年10月1日

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冷泉彰彦 (れいぜい・あきひこ)

作家・ジャーナリスト

ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。近著に『「反米」日本の正体』(文春新書)など。メールマガジンJMM、Newsweek日本版公式ブログ連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

今からすべき「仕込み」は何か

 だが、仮に国境を開ければ、何の工夫も努力もしないで「インバウンド4000万人」あるいは「6000万人」の恩恵に預かれるかというと、それは違う。憧れが強ければ強いほど小さな点で幻滅するということはある。またリピートを重ねて「目が肥えて」来た旅行者を満足させるには、コツコツとした改善や改良が必要だ。ここでは、3点ほど挙げてみたい。

 1点目は、英語の問題だ。日本文化に親しんで、日本への旅行のリピーターとなっても日本語の習得へのハードルは高い。その一方で、より日本の文化や歴史への好奇心は増大する。このニーズに応えるには、英語でより幅広い情報にアクセスできる体制が必要だ。

 主要観光地には、十分に自然で知的な英語によって、歴史や文化の情報提供ができるような人員や仕掛けが必要だし、宿泊施設、交通機関、料飲サービスの現場における英語対応はより質の向上を実現していかねばならない。

 2点目は、食事への配慮である。確かに、訪日外国人の圧倒的多数は、食文化の経験を旅行目的としている。だが、そのニーズに「あぐらをかいて」いては、どこかで限界に突き当たるであろう。

 ここでも英語での対応を拡大するだけでなく、宗教や文化を理由とした食のタブー、具体的には、コーシャ、ハラル、ベジタリアンなどへのきめ細かい対応が求められる。オーガニックであるか、カロリーや糖質、塩分など健康に影響するデータ表示なども、対応すればするほど効果があると思われる。

 3点目は、価格の問題だ。外国人観光客は意外に価格に対して厳しいセンスを持っていると考えた方がいい。例えば、今後、金融政策の変化などで為替レートが円高に振れた場合は、価格への目は余計に厳しくなると思われる。だが、反対に、食事にしても、移動や宿泊にしても、価格の透明性を印象付けたり、「お得感」のきめ細かい演出を行えば多少の円高であれば怖がる必要はない。

 発足の見通しとなった岸田文雄政権は、観光業の再起動へ向けて「Go To 2.0」という構想を掲げている。この中で、ワクチン接種履歴の活用については、その先のインバウンド再開につながる政策という評価が可能だ。

 だが、岸田構想にもある富裕層の誘致となると、これは国内需要とインバウンドには大きな差がある。インバウンド富裕層の需要は、連泊による快適な滞在を期待する一方で、より柔軟なサービスを要求し、特に食の経験には幅広さを求める。その代わり、予算としては1人一泊600ドル以上を惜しまない。

 この「Go To 2.0」だが、予算は巨額となろう。であるならば、それを単なる業界の救済ではなく、それこそ「インバウンド2.0」への戦略投資とできるか、新政権には早速そのような構想力が試されている。

  
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