例えば化学産業。需要が飽和状態にあり、国際競争力も高いとは言えない日本のエチレンプラントは、
「現状の15基から10基程度に設備を減らさなければならない」(業界関係者)
という状況にある。ところが、米ダウ・ケミカルは12年4月、テキサス州においてエチレンプラントの新設を発表した。
日本では輸入した原油をナフサにしてエチレンを生産するが、アメリカでは天然ガスを原料にしてきた。シェールガスのおかげでこれまで以上に安い原料でエチレンを生産できるようになる。
この安い天然ガスを利用するべく環境整備が進めば、中国とは違いカントリーリスクの低いアメリカは製造業にとって絶好の生産現場になる。そうすると、日本の製造業が、アメリカに向けて拠点を移すということもありえない話ではない。
アメリカがエネルギーの自給を達成することについて、田中伸男国際エネルギー機関(IEA)前事務局長(現日本エネルギー経済研究所特別顧問)はこう話す。
「アメリカの貿易赤字の6割がエネルギー輸入によるものです。それがなくなるのですから、個人消費の伸びや他部門への投資などインパクトが大きいでしょう」
消費市場としてもアメリカの魅力が一段と高まるということだ。地政学的にも大きな影響を与える。
アメリカがエネルギーの自給を達成すれば、中東への関与を減らすのではないかという懸念がある。中東情勢が悪化すれば9割の石油・ガスを同地域に頼る日本にとっては致命的な問題になる。
「アメリカ一国のエネルギーの独立と世界経済は別物」
という声が多い。中東からのエネルギー資源の輸出が止まれば、世界経済が悪化し、アメリカ経済もそれからは免れないからだ。
確かにその通りだが、日本の商社関係者は、石油メジャーの社長からこんな話を聞いたという。