「製造業ルネサンス」
アメリカでは今、こんな言葉があちこちで聞かれる。これまで採掘することが難しかった、地下数千メートルのシェール層にある石油やガスの生産技術が確立され、2000年代後半から一気に開発が進んだ。
シェールオイルの開発が進むノースダコタ州西部では、石油採掘関連の求人にあふれ、慢性的な人手不足に悩まされている。高校卒業したての18歳で年収が8万ドル(670万円)。失業率は全米平均が7.7%のところ、0.7%とほぼ完全雇用を実現している。その様子はさながら、1849年にカリフォルニアで金鉱脈が発見されて多くの開拓者が集まってきたゴールドラッシュのようだ。
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天然ガスの増産によって、供給量が国内需要を上回ったため、米国内の天然ガス価格(ヘンリーハブ価格)は3ドル台にまで低下した。この安い天然ガスを狙って、ガスを原料に使う化学メーカーを中心に米国内に製造業が回帰する動きが強まっている。(右表参照)米コンサルタント大手プライスウォーターハウスクーパースは、11年12月に『米国製造業ルネサンス』と題するレポートを発表し、米製造業の復権を予想している。
韓国ガス公社に買い負けた日本
アメリカより5~6倍高い価格で天然ガスを「高値摑み」させられている日本にとって、安価な液化天然ガス(LNG)は喉から手が出るほど欲しい。アメリカは原則、自由貿易協定(FTA)締結国にしかLNG輸出を許可していない。
非FTA国にも輸出が認められた最初のケースとなったのが、シェニエール・エナジー社が持つ年間1600万トン分のLNGだ。現在2016年の輸出開始を目指して、ルイジアナ州サビーンパスに年間約400万トンの天然ガス液化設備4系統の建設を進めている。
11年後半、その分のLNG輸出枠が売りに出された。しかし、契約を結んだのは欧州、インド、韓国のガス会社だった。価格はアメリカの天然ガス市場価格で決まるため、液化費用、船賃を含めても百万英国熱量単位当たり10ドル程度。日本のLNG価格より7~8ドルも安い。
「韓国よりも前に日本の企業と交渉はしていました。ただ、石油連動価格でしか天然ガスを購入したことがない日本企業は、天然ガス需給で価格が決まる売買契約に躊躇したのではないでしょうか」