財政再配分の効きにくい
構造的問題とは
改革開放により中国は全体として著しい経済発展を遂げたものの、先に豊かになった地方と経済的に立ち遅れた地方との格差は克服すべき課題となってきた。発展著しい沿海部との格差が深刻化した内陸部の開発支援を意図して、江沢民政権期に打ち出された「西部大開発」はもとより、財政再配分による格差是正にも中国は取り組んできている。
ところが、中国の行政階層は中央─省─市─県─郷といったようになっているため(下図)、中央による財政再配分が機能しにくい構造となっている。例えば、住民サービスを直接担っている県や郷のレベルにまで中央からの財政資金が届く前に、省や市を経なければならず、その間に遅配や流用が生じることもあるため、中央による財政再配分の効果は限定的なものにとどまってきた。
そこで2010年前後から中央の財政資金を直接県レベルに分配する試みが行われてきていて、それはコロナ禍以降の地方支援策の目玉として、全国人民代表大会での政府活動報告でも強調されている。こうした政策は一定の成果を上げている一方で、必要性の低いインフラ整備や都市再開発、庁舎・官舎の改築などへの流用は根絶できていない。
例えば、いわゆる上海閥として第17回党大会後に中央政治局常務委員就任が有力視されていた陳良宇・上海市党委員会書記が、職権を濫用し社会保険資金を不動産投資に不正流用して懲役18年に処せられた事件はとりわけ有名である。その背景には、経済開発が地方幹部の昇進に結びつきやすい考課制度の問題があるとしばしば指摘されている。
また、地方レベルの不正を監視する制度も末端にいくほど脆弱であるのに加え、物理的にも全ての地方を監視することは不可能なため、摘発されるのはサンプル調査で明らかになった氷山の一角にすぎない。ことほどさように、いくら習近平氏が強力なリーダーとしてのイメージを演出しようとも、全ての地方で政策を徹底させるのは容易ではなく、監視体制にも限界がある。
つまり習近平氏の強権化にもかかわらず党中央による直接支配が及ぶのは、人事権を直接行使できる省レベルくらいまでなのである。今年、中国共産党員の総数は9500万人を突破したが、1億人近くの中国共産党員全てに習近平氏の威光が及び、党中央による一元的統治を徹底させることが困難であるということは容易に想像がつく。
農村での末端レベルの行政機関は郷・鎮政府で、その下には自治組織としての「村民委員会」がある。都市での末端レベルの行政機関は市轄区政府の派出機関としての「街道弁事処(かいどうべんじしょ)」であり、その下に自治組織としての居民委員会がある。
居民委員会が管轄する区域は一般的に社区と呼ばれる。前述のように、1990年代からの市場経済化にともない「単位」の機能は低下したため、それに代わって住民の管理や福祉を担うものとしての社区の役割に期待が寄せられるようになった。