都市の〝町内会組織〟
「社区」の抱える苦悩
社区とは一言でいえば日本の〝町内会〟に相当するものであるが、その役割は日本の町内会よりも多く、レクリエーションや娯楽の提供はもとより、治安維持、就業支援、学童保育、高齢者介護など多岐にわたる。社区の規模は都市の大きさや人口密度によってさまざまであるが、平均すると数百平方メートルの区域に数千人程度の住民が暮らしているイメージで捉えられる。例えば、上海市青浦区には3つの街道弁事処があり、そのうちの一つである夏陽街道弁事処の下には20余りの居民委員会すなわち社区が存在している。
社区が十分に機能しているか否かは都市によって異なり、同じ都市内においても地域によって大きく異なる。例えば、古くからのコミュニティーが残っている地域ではよく機能しているものの、タワーマンションや郊外の新興住宅地では必ずしも十分に機能していないといわれる。
とりわけ課題となっているのは、居民委員会の担い手不足である。何かと負担の大きい居民委員会の役員を引き受けるのは敬遠されがちであるため、役員選挙は形骸化していて、実質的には社区の党支部メンバーが兼任するケースも少なくないようである。
さらには社区の党支部自体が担い手不足で有名無実化していたりもするので、そのような場合は近隣地域の社区と合同で党支部の運営を行ったり、上級機関から幹部が派遣されて業務代行をすることもあるという。
また、職場組織である「単位」内では党員の所属や指揮命令系統も明確であるので管理しやすい一方で、社区とはあくまでも町内会のような存在であり、その中にはさまざまな所属や指揮命令系統の下にある党員が存在しているので、「単位」とは別系統である社区の党支部を通じて党員に指示を徹底させることは困難である。社区が機能不全に陥った場合、党の政策を末端レベルにまで徹底できなくなるのはいうまでもなく、治安維持や社会的弱者救済に支障をきたすことも懸念される。
以上のように、社区の居民委員会と党支部が抱える問題は、市場経済化以降の中国における社会の変化を反映するものである。一方、社区を通じた住民管理に手を焼いていた中国共産党にとって、コロナ禍は渡りに船であったといえよう。
コロナ禍という未曾有の危機を奇貨として、ロックダウンなど社区を通じた住民管理を徹底できたのは中国共産党にとって大きな収穫であった。例えばコロナ対策を口実に、「農民工」などの流動人口を含めた住民の素性や行動履歴を把握できるようになった。
また、ロックダウンによる外出規制と身分確認の徹底は、犯罪者の摘発にも一役買ったといわれる。こうした社区を通じた住民管理の徹底がコロナ禍ゆえの一過性のものに終わるのか否か、今後の推移が注目される。
本稿で見てきたように、習近平氏の権力の絶対性や中国共産党による統治の強靭性に注目が集まる一方で、その脆弱性や限界も看過することはできない。今後、中国は米国との摩擦を強める中、中華民族の「偉大なる復興の夢」実現に向け、さらにこうした国内の統制を強めていくであろう。
このような観点に基づくと、結党100周年大会で見られた習近平氏の姿は、まさに「張子の虎」といえなくもない。中国が時折見せる強硬姿勢は、中国の弱さの反映、すなわち中国国内にある「壁」に直面していることの表れでもあるという認識の下に、日本も冷静な対中外交が求められよう。
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