拡大画像表示
それでは、自家発電設備には余剰電力があるのだろうか。表-2が示すように自家発電設備は5620万kWある。新電力の保有設備とはけた違いの大きさだ。2012年9月の稼働率は60%弱だ。発電量の半分以上は地域電力会社と新電力に販売されている。稼働率を上げれば、さらに販売できそうだが、それは不可能だ。
多くの自家発電設備は工場が操業を止めている夜間には運転しない。夜間に運転すれば稼働率は上がるが、夜間には電力需要もない。それでも、昼間も運転していない自家発電設備もある。
自家発電設備は、石油、天然ガス、石炭を利用する火力発電設備が主体だ。90%を占めている。2000年代前半まで、石油が安い時代が続いた。その時に石油火力の自家発電設備が作られたが、いまは燃料代だけで1kW時当たり14-15円する。自社の設備を使うより地域電力会社から電気を購入するほうが安い。運転すれば赤字になるので、運転されていない。この保守を行っていない設備を無理して動かせば電気料金はかなり上がる。
発送電を分離しても、新電力からも、自家発からも供給が増えることはない。
孫正義も「送電事業にはうまみがない」
発送電分離で送電料金は大きく下がることはない
鉄道、送電線などには複数の設備は無駄だ。一つの設備があれば十分なので最初に設備を作れば自然にビジネスを独占可能になる。経済学では自然独占と呼ばれる事象だ。不当に高い料金が設定されないようにコストを査定する総括原価主義が鉄道、電力、ガス供給などに適用される理由だ。
送電部門を分離すれば、送電料金は下がるのだろうか。電気を送る電圧により送電料金は異なるが、今は1kW時当たり2円から4円程度だ。その大部分は減価償却費、保守費用などだ。分離しても下がるコストは殆どない。ニュージーランドでは発送電分離後、コスト削減のために保守費用を削ったところ最大都市オークランドへの4本の送電線が全て切断するという事故が発生した。
大震災の後、孫正義氏が東電の送配電部門の買収に関心を示しているとの噂が流れた。送配電部門を買収すれば利益を上げることが可能と判断したということだった。しかし、孫氏は興味をなくしたようだ。2012年に出版された「孫正義のエネルギー革命」(PHPビジネス新書)では「送電事業にはうまみがない」と述べている。送電線で利益を上げることはできないとの判断だ。