東電の送配電部門の資産額は約5兆円ある。この資産が生み出すキャッシュフローは現在の送配電料金でも年間2500億円しかない。5兆円の資産であれば、通常のビジネスでは年間7000億から8000億円のキャッシュフローが必要だ。なぜ東電がこんな低い送配電料金でやれるかと言えば総括原価主義で、コストが保証されているからだ。純民間企業が買収すればたちまち送配電料金の値上げが必要だ。孫氏が「うまみがない」というのは、こういう訳である。発送電分離で送電料金が大きく下がることはないだろう。
発電設備は新設されるか
家庭まで電力供給を自由化すれば、発電設備を新設し電力供給を行う企業が出てくるだろうか。通常のビジネスであれば、新規市場が登場すれば新しく事業を始める企業が出てくるだろう。しかし、発電設備は商品を作る工場とは大きく異なる。
通常の商品であれば、競合相手の原価は殆ど自社と同じだ。車とか家電を考えてみればわかる。電気では、競合相手のコストは分からない。発電設備によりコストが大きく異なることと、発電の主体になる火力発電の将来の燃料費の予測が困難なためだ。新設される発電設備は火力発電が主体になる。太陽光などの再生可能エネルギー設備ではコストが高いうえに、常に発電できないとの問題があり、競争力のある価格での供給は無理だ。自社の火力発電コストも競争相手の価格も予測できず収益の見通しがないなかで、発電設備に長期投資を行う企業はない。
現状の化石燃料の価格では、石油火力の燃料代は先述の通り1kW時14から15円、天然ガスで9から10円、石炭で3から4円だ。将来の価格は予測不可能だが、今までの化石燃料価格推移をみると、石炭が最も安い。埋蔵量、生産量から考えれば、将来も多分石炭が最も価格競争力があるだろう。
石炭火力を新設し、新規需要家に供給できれば、競争に勝てる可能性が高い。しかし、石炭火力の新設は限定される。大型船を受け入れる港湾と環境規制のクリアが条件になるためだ。地球温暖化の問題からも二酸化炭素排出量が多い石炭火力の新設は難しい。
入手が容易な石油、ガス火力では将来の競争力に不安があり、また石炭火力を保有する既存の電力会社との競争が困難な可能性が高い。それならば、通信自由化の時のNTTと同じく、既存の電力会社に負担を大きくさせる非対称規制を行って競争環境を創り出して欲しいとの意見が一部の新電電から出ている。