2024年2月25日(日)

オトナの教養 週末の一冊

2021年11月12日

多くが水泡に帰すコメのブランド開発

 こうした歪な市場が形成されている中でも、「美味しいおコメ」を消費者に届けようと動き出した米穀小売店や一部で規制緩和された自主流通米制度によって生まれた「コシヒカリ」や「ササニシキ」という2大ブランドの誕生の経緯を本書では解説されている。

くまの・たかふみ 米穀新聞社記者。1954年、鹿児島県鹿屋市生まれ。県立鹿屋高等学校卒、東京経済大学中退。コメ関連の取材記者として40年以上の経験を持つ。

 そして、大きな制約が課された中で生産者らがブランド米を開発する〝狂騒曲〟から第1章が始まっている。秋田県大潟村の農家が国の減反政策と闘う中で開発され、知名度を上げていった「あきたこまち」や、価格設定が最も高くなっているコシヒカリを超えることを目指した福井県の「いちほまれ」、7月には刈り取りができいち早く新米を提供できる千葉県の「五百川」と、さまざまな展開を見せている。

 ただ、その反面、過度な食味追及によって栽培方法や品質基準を守れる担い手が確保できず生産量が追い付かなかったり、生産障害が生じやすい品種となってしまったりと、弊害も起きている。中でも、食味の部分について、熊野氏は「コシヒカリが絶対的なブランドとなっており、全生産者がそこを信仰して、超える味を目指している」と指摘する。

 コシヒカリはネッチャリしたネバネバ系のコメで、中学生が好まないといった傾向もみられているという。低たんぱくという必ずしも栄養学的には好ましくない要素が品種改良の目的として当たり前となっていることも問題であると熊野氏は考える。そこもやはり「市場がないために、本当に低たんぱく米だけで良いのか評価される機会がない。新品種の育種に関しても公の品種は行政側が判断しているので、低たんぱく以外の新しい機能を持った品種も生まれづらい」と語る。

価格が高いから、商品開発ができない

 こうした流通環境の上、生産面では生産者の高齢化やそれに伴う担い手不足による耕作放棄地の増大、消費面では「炭水化物抜きダイエット」をはじめとした消費者のコメ離れと、状況はさらに厳しいものとなっている。本書では、需要に合わせて、外食産業向けのコメの生産や、コメを食べさせようと取り組む飲食店、出身国によってコメのブレンドを変えて販売する小売店など、さまざまな取り組みを紹介している。

 それでも、コメを使った商品開発の動きは鈍いという。「可能性は大いにあるが、コメが安くならないと、何もできない」と熊野氏は現状を示す。「30年ほど前に明治製菓がコメでお菓子を作ろうとしたが、安定確保ができず、断念している。雷おこしは、かつてはもち米を使っていたが、価格が折り合わず、今では小麦粉をコメ型にして作っている」という。パンは販売促進のためにさまざまな商品が生み出されているのとは、雲泥の差である。

 国は農林水産物の輸出拡大を声高に掲げている。現在のコメは、価格の面ですでに戦えない状態となっている。コメを使った商品であってもそれは同じだ。「減反政策や飼料米への転換といった生産調整による価格維持で国内消費が減る、また農家の所得を補償するために減反が進められる、輸出しようにも高いから売れない、という悪循環が生まれている」と熊野氏は話す。

 こうした歪んだ生産・販売環境によって、生産者や卸売業者が日本や世界でも独特な競争の仕方をしている。日本は外に目を向けるよりも、足元から見直さなければならない点がたくさんあるようだ。

 「日本のコメは市場を捻じ曲げる現象が多すぎる。ここを変えないと、日本の農業に未来はない」。何度でも強調したいことである。

   
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