オトナの教養 週末の一冊

2021年11月12日

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 「日本の美味しいおコメを世界に売り出す」――。生産者らのそんな思いは、現状のコメにまつわる取引システム下ではほぼ不可能となっている。「日本では市場(消費者)を見たコメの生産や販売がなされていない」と『ブランド米開発競争―美味いコメ作りの舞台裏』(中央公論新社)を上梓した熊野孝文氏は語る。日本のコメ産業に巣食う課題を聞いた。

 熊野氏は東京経済大学中退後、コメの相場情報として米穀市況を速報する仕事に8年従事し、米穀新聞の記者として農家と卸売業者、小売店と、それぞれが取引する現場を取材してきた。コメの売り買いを見聞きすること40年。「利権でがんじがらめの制度となっており、生産額と同じくらいの補助金が注がれている。とても市場に任せた環境ではない」と問題点を指摘する。

 本著は、ブランド米の開発と販売でしのぎを削る生産・流通・消費の現場を伝えながら、コメ業界がいかに産業としての自立が難しい状態になっているかを検証している。

戦時の食糧難から続くコメ取引の独特性

 コメの価格設定は、多くの人がイメージする「市場」とは違ったやり方となっている。肉や魚、野菜といった生鮮食品は、豊洲や太田といった卸売市場に現物を持って行き、競りなどによって価格を決めている。対して、コメは、未だに市場を通さずに、全農が決めた相対価格と言う基準価格をコメ卸が受け入れる形での価格による流通が全体流通の3分の1を占めている。

 卸売市場もしくコメの現物市場を通していれば、競争入札となるため、需要と供給のバランスによって価格に変化が生まれるが、全農と卸の相対価格交渉では市場の動向は反映されない傾向になる。「新米価格を決める席上取引の場には、報道機関など部外者は入ることができない。真にコメの価格が決まる場での仕入れを見られたくないのが本音となっている」と熊野氏は現状を語る。

 これは、戦時中の食糧管理法に端を発しているという。政府が全てのコメを買い上げ、販売価格を決めていた。これは戦後の食糧難でも続いた。その後、食糧法、改正食糧法へと変遷があり、流通規制は部分的に緩和されてきたが、コメ政策の基本はコメの価格を維持することが目的で、コメの生産量を減らすために年間3000億円を超す転作奨励金が支払われており、価格を維持するための差損分は国の予算をもって補填する形は続いてしまっている。

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