お花畑の農業論にモノ申す

2021年10月19日

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渡辺好明 (わたなべ・よしあき)

新潟食料農業大学学長

1945年生まれ。68年3月、東京教育大学文学部卒業し、同年4月に農林省入省。水産庁長官、農林水産事務次官、内閣総理大臣補佐官、東京穀物商品取引所理事長などを歴任。2018年4月に新設された新潟食料農業大学で学長に就任した。全国農地保有合理化協会会長も務める。

 農林水産省が、8月に2020年度の食料自給率を公表した。「カロリーベース」の総合食料自給率は、1ポイント下がって37%と過去最低になり、生産額ベースの総合自給率は、1ポイント上がって67%という内容だ。

 「自給率の計算式」は、どの自給率にも共通で、<生産>÷<消費>x100であるが、① 分子<生産>、分母<消費>ともに変動する、②<生産>には「輸出向けの生産」が含まれるということを押さえておく。その上で、この「カロリーベース食料総合自給率」が農政の目標足りうるかを検証することにしたい。

(zepp1969/gettyimages)

「過去最低」 数字よりも内容の吟味を

 各種報道では、カロリーベース総合食料自給率は「過去最低の37%」が強調され、生産額べースでの上昇はほぼ無視である。新聞の投書欄などにも「深刻な状況、米132%、独86%、英65%に比べて低すぎる … 私たちが国産品をもっと食べることが国内農業を守り、自給率を上げることにつながる …」との主張も見られた。

 そもそも、自給率には、コメや牛肉といった個別の農産物ごとに重量で計算する「品目別」と、食料全体について単位を揃えて計算する「総合」がある。報道において語られるものの多くが「総合」となる。総合自給率を算出する際に揃える単位を、基礎的な栄養価であるエネルギー(カロリー)とするものと、生産額(食料の国内消費仕向額)とするものがある。

 エサ穀物を輸入に依存する日本の畜産では、平均すると7キロカロリーの輸入穀物を1キロカロリーの国産畜産物に縮小している構造だから、畜産が盛んになるとカロリー自給率は低下する。また、ビタミンやミネラルが豊富でも、カロリーのほとんどない野菜、果実、花の国産は自給率向上に寄与しない。

 一方、生産額総合自給率は、にんにくの例でいえば、中国産が5玉で200円、青森産は1玉で300円という現状だから、国産の振興は直ちに、大きく自給率向上につながる。

 確かに、食料・農業・農村基本法第15条第3項に「食料自給率の目標は、その向上を図ることを旨として」とあるが、「それはカロリーベース自給率である」とはいっていない。また、それに続けて、「国内の農業生産及び食料消費に関する指針として」と明記している。 

 投稿のように「国産品をもっと食べる」と自給率は上がるのか、いや、かえって下がりはしないか。自給率の計算方式、当てはめている数字、日本の農業生産や需給の構造、今後の方向性、さらには、カロリーベース自給率の政策的な意図、海外諸国の自給率の取扱いと目標などについて、順次解説を加えたい。

日本人の食生活は「望ましい姿」から外れている

 望ましい食生活とは何か、向上を図ることを旨としている「目指すべき食料自給率」との関係はどうか。歴史を遡る40年ほど前、アメリカ上院議員が世界から専門家を集め食事と慢性疾患の因果関係をまとめた「マクガバン報告」(1977年)が始まりだ。

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