2022年12月4日(日)

お花畑の農業論にモノ申す

2021年10月19日

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渡辺好明 (わたなべ・よしあき)

新潟食料農業大学学長

1945年生まれ。68年3月、東京教育大学文学部卒業し、同年4月に農林省入省。水産庁長官、農林水産事務次官、内閣総理大臣補佐官、東京穀物商品取引所理事長などを歴任。2018年4月に新設された新潟食料農業大学で学長に就任した。全国農地保有合理化協会会長も務める。

 アメリカ人の食生活に警鐘を鳴らして、「日本の食生活に学ぼう」と指摘した。脂質(F)に摂取過剰が見られたアメリカ人の食生活を「日本人の食バランス」へと是正しようとしたのだ。

 昭和50年代(1975年代)初頭の日本人の栄養摂取バランスは、タンパク質(P)15%、脂質(F)25%、炭水化物(C)60%で、「日本型の食生活」が理想とされた。なお、いまでは、日本人も、食肉や油脂から摂取するFが過剰となり、コメ消費の減退からCの割合が小さくなっている。

 ちなみに、農林水産省の試算では、マクガバン報告のあった1977年当時のカロリーベース食料自給率は53%で、「目指せ!昭和50年代の食生活」を掲げる動きもある。もちろん、これには、PFCバランスのみならず、例えば、Pのうち植物:動物比、動物性Pのうちでの水産物:畜産物比も含まれている。

 国内生産の増大だけの形式的な数字ではなく、「望ましい食生活の下での需要と供給がセット」になって初めて目標になりうるのである。新たな食料・農業・農村基本計画の実行面でも、これらを十分踏まえ、かつ、現実味のある目標として丁寧な説明が必要だ。 

なぜ、日本はカロリーベースを選んでいるのか

 農林水産省の公表資料の中で、「世界の食料自給率は国際比較のため試算した」とある。つまり、「カロリーベース自給率」は、<国際標準ではない>と認めているのだ。各政府の公表数値は、カロリーベースはスイスのみ、生産額ベースはイギリスのみである。

 日本独自の計算がなされている背景には、昭和40年代(1965年代)半ばからの米の供給過剰と生産調整の導入、これに対する農政予算の確保があると推測される。いわゆる前向き農政費は「抑制的な生産者米価と消費者米価の引上げ」で対応していたが、生産調整と転作拡大にはなお膨大な予算が必要であった。

 「海外先進諸国に比べてこれだけ低い自給率では、国家の安全保障の上で問題がある。大変困難なのだから予算が必要だ」という論法ではなかろうか。この時期の農林大臣所信表明の冒頭部分では、「わが国農業・農村をとり巻く情勢は誠に厳しいものがある。このような状況に対処して…」と切り出すのが定番だったと記憶する。 

 ちょっと新しい動きにも触れたい。カロリー自給率が低下傾向から回復せず、45%からかなりの乖離が見られるせいか、グローバル化の進展に配慮したせいか、新基本計画には、飼料や原料の海外依存分を除外した「食料国産率」が追加された。それによれば、現状は、カロリーベースで46%が国産(10年後目標は53%)となって、「近年は横ばい」という説明である。

自給率100%は幸せなことなのか

 自民党総裁選挙で「食料自給は100%が望ましい」と主張した候補もいた(日本農業新聞、2021年9月28日)が、この100%には現実性があるのか、また、どんな事態が想像されるのか。

「カロリーベース総合自給率」100%では、日本から畜産業はほとんど姿を消し、油脂産業も激減するだろう。畜産業の現状は、7キロカロリーのエサを輸入して1キロカロリーの畜産物にし、油脂の製造も原料の大豆、菜種など多くが輸入で、これに相当する農地規模は1200万ヘクタールともいわれる。

 現存する日本の農地面積は442万ヘクタールで、他作物が占めている。輸入を止めれば、畜産業、油脂製造業は成り立たない。

 仮に輸入飼料穀物をストップし、林野や未利用地の飼料作物(牧草)や食品残渣の有効利用で牛乳、食肉を生産する、飼料効率の悪い家畜から昆虫など効率よくタンパク質を作る畜産に切り替えるという世界を想像できるだろうか。(コオロギは牛の7倍の効率)

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